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小山は声を潜め、内緒話をするように晴久に顔を寄せた。
「いつも地味だし、顔が見えないんであんまり知られてないんですけど、結構良い子なんですよ」
「……そうなのか?」
「毎日早く来て仕事してるし、早朝に内線かけても出てくれるんで営業部は助かってます。レスポンスも早いし、何頼んでも嫌がらないでやってくれるんで、俺らの間じゃ電話かけて細川さんが出ると、当たりなんですよ」
たしかに良い子だった、晴久も同感だと頷く。
「……それに実はあの子、めっちゃくちゃ美人らしいんです」
「なっ……」
晴久は初めて小山の噂話に身を乗りだし、「なんでそんなこと知っているんだ」とすごい剣幕で尋ねた。
小山も圧倒されながら「それは」と続ける。
「俺、総務に彼女がいるんですよ。相葉皆子っていうんですけど、知ってます?」
「知らん」
「そ、そっすか……。で、皆子が細川さんと結構仲良いんですけど、素顔を見たことあるんですって。清楚で上品で、少し童顔だって言ってました。そんなん俺、下手したら岩瀬さんよりタイプだったりするかも」
「……お前、彼女」
「あ、はい。まあ一番のタイプは彼女って言ってますよ。怒られちゃうんで」
軽い小山に呆れつつ、晴久は「だが」と付け加えた。
「あまり言い触らさない方がいいんじゃないか。何か理由があって、本人が隠しているのかもしれないだろう」
ここまで言っては不自然ではないかと思った晴久だが、口止めしておかなければ雪乃の身が心配になった。
それに、あまり他の男に彼女の素顔を知られたくない、とも思った。
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