「俺に下心がないと思う?」

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嬉しさからわずかに動揺した晴久は、天ぷらを蕎麦つゆに浸けたまま箸を止める。 すると小山も、箸を置いた。 「俺は正直、皆子ほど細川さんの恋愛話に興味があるわけじゃないんですけど。こうしてわざわざ話しているのは、細川さんみたいに高杉課長にも恋愛してほしいからです」 「何?」 「余計なお世話かもしれないですが、課長は優しいし、俺の面倒も見てくれるし、絶対恋人のことも大切にするタイプですよね」 晴久は気恥ずかしくなり黙ったが、小山の言うことには同感だった。 今でこそ女性社員から素っ気なくクールなイメージを持たれているが、彼は本来、面倒見の良いタイプだと自分でも自覚している。 それは恋人に対しても同じで、優しく接することはもちろん、甘やかす傾向にあった。 「男性恐怖症だった細川さんが恋愛を始めたんですから、高杉課長だってできますよ」 「……別に俺は、できないわけじゃない」 「でも、顔を隠して出勤したり、朝の時間をずらして電車に乗ったり、ずっとそんなことをするわけにはいかないじゃないですか。誰かに見られているという恐怖を払拭するには、恋人に隣を歩いてもらうしかないと思います」 「小山……」 「……って、まあ、余計なお世話だとは思うんですけど。でもやっぱり、勿体ないなって」 晴久はそんなことまで気付かれているとは思わず、顔を上げた。 小山は思っていたよりずっと真剣な顔をしており、初めて彼の言い分について真面目に考えてみる。 恋人がそばにいることが恐怖への抑止力になるなど思い付きもしなかった晴久は、雪乃だけではなく自分もひとりきりで抱えていたのだと、悔しくも小山の言葉で気付いたのだった。
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