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徐々に良い匂いが漂い始め、ぐつぐつと鍋の煮える音がしている。
笑顔を浮かべながら素顔で料理を進める雪乃の後ろ姿を盗み見て、晴久は彼女か料理か、どちらに対してか分からない唾を飲み込んだ。
その後、四十分が経ち、仕事に没頭していた晴久を雪乃が横から覗き込む。
「ご飯は出来ましたけど、お仕事が終わってからで大丈夫ですよ。食べるとき、声かけて下さいね」
「あ、いや。もう食べようかな」
「じゃあ、準備します」
晴久の家にある不揃いな皿たちを上手く使い、雪乃は料理を盛り付けていく。
メニューは白御飯に白菜の味噌汁、海藻サラダ、三葉と湯葉の煮物に、メインは鶏の照り焼き。
テーブルに並べられた彩りの良いおかずの数々に、晴久は「え!?」と感嘆の声が漏れた。
「すごいな。これ全部今作ったの?」
「はい。お口に合うといいんですけど」
テーブルには片面しかソファがないため、雪乃はエプロンのまま、晴久の隣に座った。
「いただきます」
手を合わせ、照り焼きを一口食べると、晴久は「すごい美味しい」と素直に言った。
「良かった。私もいただきます」
箸が止まらない晴久に笑顔を向けた雪乃も、上品に料理を口へと運んでいく。
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