6326人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
時計の針の音がしているのに、雪乃は時が止まったかのように固まった。
強気に迫る晴久に翻弄されながらも、次第に熱い瞳を彼に向ける。
こんなのただの上司と部下の関係じゃない。
言葉にされたことで、感動と緊張が走る。
「……晴久、さん……?」
雪乃は掠れた声で、恐る恐る呟いた。
晴久は彼女の頭を撫でる。
「よくできたね」
雪乃はカタカタと震えながら、「え……え……」と混乱ぶりを露にする。
「あの……私、国語力が乏しくて申し訳ないんですが……それって、つまり……」
「つまり?」
「ですから、つまり……晴久さんは、私のこと……。あれ? 私の勘違いでしょうか……」
「合ってるよ。……ごめん、少し意地悪し過ぎたな。あんまり可愛いくてさ」
晴久は笑顔を緩め、雪乃と額をくっつけた。
「雪乃が好きだよ。付き合ってほしいと思ってるんだけど、大丈夫?」
感動で涙を溢す雪乃に対し、イエスを確信している晴久は返事をする前に彼女を抱き締めた。
戸惑っていた雪乃も、そわそわと腕を背中へと回し、やがて晴久の胸にすがり付く。
「私も好きです……」
「ありがとう。嬉しいよ」
ソファで雪乃を抱き締めながら、晴久は考えていた。
恋人になって一緒に眠ったら、今夜はきっと我慢はできないと思っていた。
両思いなのだからそれでも良いのかもしれないが、素顔を隠した自分を好きになってくれて、恋愛に前向きにさせてくれた雪乃のことは、もっと大事にしてあげなければ。
とびきり紳士的に、彼女のペースに合わせて進めていきたい。
できる限りの優しさで包んで、今までの辛いことを忘れさせてあげたい。
雪乃に自分の欲をぶつけるような真似は絶対にしない、そう胸に誓った。
最初のコメントを投稿しよう!