「俺に下心がないと思う?」

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時計の針の音がしているのに、雪乃は時が止まったかのように固まった。 強気に迫る晴久に翻弄されながらも、次第に熱い瞳を彼に向ける。 こんなのただの上司と部下の関係じゃない。 言葉にされたことで、感動と緊張が走る。 「……晴久、さん……?」 雪乃は掠れた声で、恐る恐る呟いた。 晴久は彼女の頭を撫でる。 「よくできたね」 雪乃はカタカタと震えながら、「え……え……」と混乱ぶりを露にする。 「あの……私、国語力が乏しくて申し訳ないんですが……それって、つまり……」 「つまり?」 「ですから、つまり……晴久さんは、私のこと……。あれ? 私の勘違いでしょうか……」 「合ってるよ。……ごめん、少し意地悪し過ぎたな。あんまり可愛いくてさ」 晴久は笑顔を緩め、雪乃と額をくっつけた。 「雪乃が好きだよ。付き合ってほしいと思ってるんだけど、大丈夫?」 感動で涙を溢す雪乃に対し、イエスを確信している晴久は返事をする前に彼女を抱き締めた。 戸惑っていた雪乃も、そわそわと腕を背中へと回し、やがて晴久の胸にすがり付く。 「私も好きです……」 「ありがとう。嬉しいよ」 ソファで雪乃を抱き締めながら、晴久は考えていた。 恋人になって一緒に眠ったら、今夜はきっと我慢はできないと思っていた。 両思いなのだからそれでも良いのかもしれないが、素顔を隠した自分を好きになってくれて、恋愛に前向きにさせてくれた雪乃のことは、もっと大事にしてあげなければ。 とびきり紳士的に、彼女のペースに合わせて進めていきたい。 できる限りの優しさで包んで、今までの辛いことを忘れさせてあげたい。 雪乃に自分の欲をぶつけるような真似は絶対にしない、そう胸に誓った。
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