「俺に下心がないと思う?」

10/14

6326人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「どうかな。雪乃を見てれば、ご両親に大事に育てられたんだと分かるよ。俺は少し年が離れているから、年下で部下の雪乃を好き勝手に扱っていると見られたら、あまり良く思われないだろう」 晴久はこの期に及んで雪乃を子供扱いすることで、ぎりぎりに自制心を保っていた。 両親に大切にされている彼女に安易に手を出してはいけない。わざわざ口に出し、そう自分に言い聞かせている。 そうとは知らない雪乃はモゾモゾと動いて晴久の腕から抜け出すと、うつ伏せになって頭を持ち上げた。 「そんなふうに思わないです。晴久さんは大丈夫ですし……」 このまま寝ようとしていたまどろみの中、晴久は、彼女のその一言に一気に目が覚めた。 “大丈夫”という言葉がじわじわと、自分の我慢とは見合わない評価をされていることへの違和感が喉元まで込み上げてくる。 「……待って。大丈夫ってどういう意味?」 大人しく聞いていることはできず、ついに彼女に聞き返した。 聞き返されるとは思っていなかった雪乃は「えっ」と戸惑いの声を漏らしたが、晴久は頭を上げている彼女と対角線になるようじっと視線を合わせ、逃がそうとしない。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6326人が本棚に入れています
本棚に追加