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「ですから、それは……」
言葉を間違ったかと目を泳がせる彼女は、腕の力が抜けて顎が落ち、そのまま丸くなる。
「晴久さんは、下心じゃないですから……」
晴久はすぐに動き出し、雪乃の手首を一つ掴むと、引き寄せながら反転させ、簡単に腕の間に閉じ込めた。
シンと静まり返る。
晴久に覆い被さられ硬直した雪乃だが、それでも浮かべているのは恐怖ではなく、ただ呆気に取られていた。
「俺に下心がないと思う?」
今の状況を理解していない彼女を挑発的に見下ろして、晴久はその気になれば簡単に奪えるということを見せつける。
初日の夜から、こうしなかったのは、全て自分の我慢の上で成り立っていたこと。
それを下心がないと思われていたのなら、大きな勘違いである。
雪乃に幻滅されるかもしれないという不安もかすかにあったが、晴久は彼女に、こういうことをされたくないのなら危機感を持ってほしいと警告したかった。
「晴久さん……?」
「俺も男だよ。好きな人の近くにいたら、こうしたいと思うに決まってるだろう。家に泊めて一緒のベッドに入るなんて、下心がない方がおかしいと思わないか?」
「え……」
「……分かった? もし俺に手を出されたくなかったら、あまり挑発しないでほしい」
晴久は上司のように厳しく言った後で、甘く微笑み、頭を撫でた。
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