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午後三時の上映時刻まで二人はショッピングモールを歩いた後、同じ敷地内にあるシネマシアターへ。
ウィンドウショッピングの間にすっかり慣れた雪乃は晴久と腕を組み、携帯のディスプレイをかざしてチケットを発券した。
チュロスとアイスティーを買ってもらい、上映開始まであと十分のところでシアターに入ると、中心から右後ろほどに位置する座席に座る。
シアター内が明るいうちに入ろうという晴久の気遣いのおかげで、雪乃は開始までワクワクして過ごしていた。
「ひと口ちょうだい」
晴久が顔を雪乃のチュロスに寄せた。
彼女はご機嫌で「はい」と食べかけのチュロスを彼の口に入れる。
「これ何の味?」
「シナモンですよ。苦手ですか?」
「いや、美味しい」
至近距離で視線が絡み、じっと見つめ合う。
晴久が先に笑みを落とし、「まだ明るいから駄目だな」と何かを予感させる冗談を言うと、雪乃は苦手なはずの暗闇がほんの少し待ち遠しくなった。
その後、シアター内はすぐに暗くなった。
手元すら見えない暗闇に包まれたが、雪乃は晴久が隣にいるだけで驚くほど平気な様子である。
それでも晴久は手を握って「大丈夫?」と尋ね、雪乃は頷いた。
冒頭のコマーシャルが始まると、雪乃はその迫力に驚いた。
高校生以来の映画館の臨場感。
素直に「わっ」「すごい」と声を漏らした雪乃に、晴久は「まだ始まってないよ」と小声で笑いかけた。
「ふふ」
「どうしたの?」
「……すごく楽しいです」
「だからまだ始まってないって」
クスクスと笑いながら肩でつつき合う二人は、まるで学生カップルのようにはしゃいでいた。
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