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映画が始まると手を離し、真面目な二人はどちらもきちんとストーリーを追い始めた。
集中する雪乃はチュロスをかじることも忘れるほどラブストーリーのヒロインに感情移入している。
そんな姿が可愛い、と時折彼女に見惚れる晴久も、久々のジャンルの映画を新鮮な気持ちで楽しんでいた。
紆余曲折あった、物語の終盤。
雪乃の目が泳ぎ始めた。
シアターの画面を直視できずに、前髪の隙間から見ては逸らすを繰り返している。
幼なじみのヒーローとヒロインが大人になってから恋に落ち、ついに結ばれる場面。
キスを繰り返し、ついにヒーローが押し倒すという山場だった。
ラブシーンが直視できない雪乃にもちろん気付いていた晴久は、心の中では微笑ましく観察する。
しかし、どこへ行っても可愛らしく初心な反応を見せる彼女に、やがて気持ちは高まっていった。
「……雪乃」
ごく小声でそう呼び掛け、彼女が振り向いたところで顔を寄せる。
「は、晴久さん……」
真っ暗で誰にも気付かれないのを良いことに、二人はラブシーンの間、何度もキスをした。
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