「今夜は優しくできそうにない」

12/13

6325人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「ここは午後六時になると、こうなるんだ」 青い空間の中でぼんやりと照らされている晴久が、落ち着いた声でそう言った。 「……綺麗……」 雪乃の瞳にも青い光が揺れている。 ドキドキした今日一日のトキメキがじんわりと、穏やかに心に溶けていくようだった。 暗闇を避けていた雪乃は、いつもなら見る間もなく足早に通りすぎていく光景。 イルミネーションを見てこんなに胸がいっぱいになることは、今までなかった。 「夜道も悪くないだろう?」 「晴久さん……」 言葉を失うほど感動した雪乃は、ぴったりと晴久に体を寄せた。 彼の腕に頬をくっつけ、目の前のロマンチックな景色をうっとりと眺める。 「雪乃。これからは俺がそばにいるから。行きたい場所にどこだって連れて行くよ」 猫のように頬を擦り寄せて、彼の言葉を噛み締めた。 雪乃は今日のデートで実感していた。晴久が隣にいればどこへでも行ける。 彼のおかげで失った十年を取り戻し、やっと自由を手に入れた気がした。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6325人が本棚に入れています
本棚に追加