「ここで抱かせて」

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皆子は雪乃の手を引っ張り、誰もいないフリールームへと駆け込んだ。 長テーブルと椅子がずらりと並ぶが、彼女はそそくさと入り口近くの端に雪乃を追いやる。 「皆子さん、どうしたんですか?」 困惑しながら尋ねる雪乃に、皆子は汗だくで「待ってね、今見せるから」とバッグに手を入れてかき回した。 「これ!」 取り出した携帯の画面を数回タップし、彼女はその画面を思い切り雪乃の目の前へと突きつける。 ピントが合うまで数秒かかるも、その画面に写し出されているものを目にした途端、雪乃の顔色は青く変わっていく。 「これ、雪乃ちゃんだよね? 高杉課長と腕組んでるの」 携帯画面にフルサイズで出されていたのは、青いイルミネーションの中で腕を組んで見つめ合う雪乃の晴久のツーショット。 お互い以外は目には入っていない無防備な二人の、土曜のデートのひとコマだった。 「……皆子さん、どうしてこれ……」 「雪乃ちゃん、高杉課長と付き合ってたの!?」 質問に食い気味で質問を返され、ビクンと肩が揺れた。 雪乃は全く冷静ではない頭をフルに回転させる。 秘密主義の晴久の許可を得ず、付き合っていることを公言するわけにはいかない。 それは真っ先に思い付いたが、素顔を知っている皆子をやり過ごす方法が思い付かず、言葉を詰まらせた。
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