終章 苦悩と悲哀

12/14
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
 それには、同情する。なんて馬鹿な、と思わなくもないが、仕方がない部分もあったのかもしれない。自分が大事ということさえ分かっていれば、そう、信じられていれば、このような地獄、味わわずに済んだかもしれない。霊斬は自身に対して、あまりに冷静で、あまりに冷酷だった。そのくせに、生きる執念は人一倍強い。  この男は本当に、これっぽっちも〝自分が大事〟などとは思っていない。  それは確かである。  ここまで自身に対して、冷酷でいられるのはこの男ぐらいだろう。  霊斬がこのような生き方をしていなければ、〝因縁引受人〟などと言う裏稼業は存在しなかったかもしれない。  もっと楽に、霊斬は生きることができたかもしれない。  そう、これは事実をもとにした〝可能性〟の話である。  自分を大事にするということを、誰かに説かれていれば、闇しか見えない道に迷い込むこともなかったかもしれない。逆に、光の中でのびのびと生きていられたのかもしれない。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!