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序章 暗雲
時は江戸。将軍のお膝元。まだ日も高い午後、鍛冶屋町の外れにある一軒の鍛冶屋、その名も〝幻鷲〟。その閉じられた戸を叩く男がいた。
「開いていますよ」
静かな声に導かれ、男が戸を開けると目に飛び込んできたのは、理路整然と並べられた多くの商品だった。根付、はばきなどの装飾品から鞘つきの刀まで、その種類は多岐に渡る。
「いらっしゃいませ」
商品のさらに奥の部屋にその人物はいた。正座をしてこちらを見ている。
「どうも」
男は頭を下げる。
「本日はどのようなご用で?」
そう尋ねるのはこの店の主、幻鷲だ。見た目は二十八くらいで、引き締まった身体つきをしている。端正な顔に切れ長の目。動きやすそうな青の着物を着ており、濃紺のたすきで袖を縛っている。あらわになった両腕はどうしてか古傷だらけだった。
「ある人を捜しているのです」
「ある人……とは?」
幻鷲が首をかしげる。
男は噂に聞く名を口にする。
「……因縁引受人というお方です」
その名を聞いた瞬間、幻鷲の瞳に影が差す。
「……分かりました。こちらへ」
幻鷲は言いながら、自分が座っている床を手で示した。
男は幻鷲の変化に驚きながらも、草履を脱いで、向かい合った。
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