世界一不真面目なホワイダニット

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「やはり、あなたが犯人だったのですね」  吹雪により封鎖された山奥の洋館。薪が爆ぜる暖炉の音を背景にして、ついに探偵は犯人を追い詰めた。 「あなたに聞きたいことが二つあります。どうして皆さんを殺害したのですか?そして、どうして私だけは殺さなかったのですか?」  それを聞いた犯人の顔に、これまで見せなかった動揺の表情がうっすらと浮かんだ。 (どうしよう…探偵の食事にだけ毒を入れ忘れてたなんて今更言えないよなぁ…)  内心焦る犯人とは対照的に、探偵は確固たる自信を持ってなおも追及する。 「さあ、白状しなさい。これはきっと、逆に私にだけ恨みがあったパターンのやつなのでしょう!お前だけは生かしたままで他人が死んでいく恐怖を与えてやる、的な!」 「そ、それはだな…」  妙なことになった、と犯人は心の中で毒づいた。まさか犯行の大詰めでうっかりミスをしてしまったとは絶対に言い出せない雰囲気である。 「えーと、そ、その通りだ!貴様はどうせ覚えていないだろうが、俺の妹は貴様が殺したも同然!だから貴様以外の人間が無残に死んでいく様を見せつけ、誰も救えない無力さを教えてやったんだ!」 (とっさに適当なことを言ってしまったが、これならそれっぽいか…?) 「私が、あなたの妹を…?」 「そ、そうだ!」  どうかバレませんように、と心の中で祈りながら、犯人は探偵の表情を注視する。 「そんな…ぶっちゃけ心当たりは全くありませんが、私のせいで誰かが犠牲になったというのですか…?」  そりゃまあ心当たりはないだろうが。  ありもしない過去を必死に思い出そうとしている探偵の顔を見ると、どうやらでっち上げの作り話を探偵に信じてもらえたようだ。犯人は一転してニヤニヤと満足そうな表情を隠せない。 「あの、大体いつ頃の話か教えてもらっても…?」 「そ、そんなことより!さすがは探偵さんだ、完璧に偽装した俺の犯行を見破るとは。あなたをここに招待したことだけが計算違いでしたね」 「え?まあ、一応探偵ですからね」  あぶなかった。嘘の詳細を語ろうとすれば、いずれはどこかで探偵の記憶と矛盾してきてしまうだろう。  急に話が逸らされたことを探偵も不審に思ったかもしれないが、犯人が犯行を認めているのは確かなのだ。これ以上は議論の余地もないだろう。 「それにしても、探偵さんはどうして俺が犯人だと分かったんですか?」 「え?」  嘘の動機をこれ以上追及されないよう、犯人は必死で話を逸らそうとする。 「いや、俺も結構頑張って自殺に見えるような偽装とか色々したんです。それなのによく俺が犯人だと見破れたなぁと思いまして」 「ふふ、それはですね…」  探偵は勿体付けて窓の外の吹雪を眺める。ガラスに反射する暖炉の火がちらちらと踊るのを目の端に捕らえながら、探偵はこう思っていた。 (どうしよう…ほかに生きてる人が誰も居ないからとりあえず犯人扱いしたなんて今更言えないよなぁ…)  冷静を装った仮面の下で、探偵もひそかに冷や汗をかいている。  探偵と犯人のぎこちない会話は夜明けまで続いたのだった。
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