願い事

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願い事

二人とも神経質な性格で、こう、と決めたことはなかなか変えません。感性も似ているのか思い浮かぶことも似ていました。 そんな二人のいるこの街には、ぼんやりとしてハッキリ見えない大きな怪獣も住んでいます。たまに人間を食べていました。その怪獣はキッチリかっちりとした性格の人間が大好物でした。たくさん食べれば、いつか自分もハッキリして仲間に見つけてもらえると信じていました。 この世界では神さまはぜったいに姿を見せてくれません。どんな思いも願うだけでは叶わないといわれている世界。怪獣もそのことを知って行動していたのです。 二人ともお互い、相手がたまに身に着けるソレが気になっていました。一緒にいるときはいつもチラチラとソレを探します。 ソレは「二つを組み合わせると願いが叶う」と言い伝えられている貴重なものでした。それを二人は1つづつ持っているのです。 二人とも最初はソレをなんとかもらえないかと考えていましたが、どちらも代々受け継がれてきた大事なものだと知っていて、とても口には出せません。 でも、いつも一緒にいるうちに気持ちが変わってきたのです。ソレを身に着けているお互いのことがとても好きになってきたのです。 年に一度の夏の大きなお祭りの日に何かをプレゼントして、すごく喜んでもらいたくなりました。お互いの笑顔がとても好きになっていたのです。 いっぽう、このところ怪獣はお腹を空かせています。好物の人間がなかなか見つけられないのです。 ある日、二人は掲示板に貼られていた仮面オークションのお知らせを見て驚きました。お互いのそソレと同じものが2つ出品予定リストに出ていたのです。 二人とも、落札できれば相手の夢を叶えてあげられる! そう思いました。 お互い声には出しませんでしたが(これだ!)と心に決めました。これをプレゼントして最高の笑顔が見てみたい! そして大好きな気持ちを伝える! そう決めました。 でも二人のお給料では1つすら落札できるかどうか…。貯めていたお金を足しても足りそうもありません。大きな問題です。 それから二人は怒鳴られたり蹴っ飛ばされたりしながらも、いつか仕返ししてやる! と、いつも以上にお仕事を頑張りました。 怪獣はさらにお腹を空かせています。 そしていよいよ、お祭りの日となりました。 夕方、二人は公園にいました。 「最近あれ着けてきてないよな?」「あんたこそ最近あれ着けてないじゃん?」セミがうるさいせいか二人の声も少し大きく、ちょっと震えているようでした。 そう言うと二人はプレゼントを差し出します。 怪獣は公園で好物を見つけました! 間違いなく好物の匂いです! 怪獣に気づかない二人は、ちょっと驚くと納得したように笑いました。 二人はお互いがプレゼント代のために出品したものをそれぞれ落札していたのです。 二人の頭の中に、授業で読んだオー・ヘンリーの「賢者の贈り物」が浮かびました。馬鹿なことをしたような、でも、それでいて嬉しい気持ちでいっぱいになり、お互いの両手をつかんで大きく笑い出しました。 二人には怪獣が見えません。 怪獣が大きく口を開けます! これまでの思いを込めて一息に二人を食べようとします! 二人は抱きしめ合っています。 瞬間、怪獣は背中をポンと叩かれました。振り向くと怪獣がいました。自分と似ている怪獣がいたのです! ぼんやりとした怪獣の、願いが叶ったのです! 年に一度の夏の大きなお祭りの日、二人にとってお互いの気持ちが最高のプレゼントでした。二人は手をつないで、怪獣とは逆の、明るい方に駆けていきました。ソレを落としていることに気付きもしません。 二人には新たなハッキリとした同じ目標が生まれましたが、怪獣に食べられることはありませんでした。 お祭りの鈴の音が遠くに聞こえるなか、大きな弾むような足音も公園から遠ざかってゆきました。 虫の鳴きやんだ真っ暗な公園も静寂につつまれてゆきます。 公園で落とし物を拾った神様が、冗談ぽく願い事をささやいてでもみたのでしょうか、今夜は不思議と、誰もがちょっと嬉しい気持ちになる夜でした。 (おしまい)
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