子どもが親を選ぶの?

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「子どもは親を選んで生まれてくる。」私はこの言葉が大嫌いだ。妊娠してから子育てに対する漠然とした不安からか、子育てに関する本やニュースがやたらと目につくようになった。そんな中で目に飛び込んできたのがこのフレーズ。胎内記憶を持っている子どもというものはいるらしくて、そんな子どもが親に「お母さんに会いたくて生まれて来たんだよ。」とか「空から見ていてお母さんのところを選んだの。」とか言ったとか言わないとか。この言葉を見た最初の私の感想は「はぁ?」だった。それから数ヶ月経ち今日これから帝王切開で出産というところまで来たが、まだその感想は変わらない。少なくとも私はあんな親の元に生まれたくなかったし、選んで生まれたとしたら私は相当馬鹿だ。  私はほぼ祖母に育てられた。父親は私が生まれてすぐに不倫相手との間に子どもを作って消えたし、母親は私が幼稚園の頃蒸発した。それ以来私は母方の祖母に育てられた。祖母は本当にいい人だった。自分の娘である母親が蒸発したことを事あるごとに謝ってきたし、両親がいなくても私を立派に育てようとしっかりしつけをしてくれた。そして、優しかった。だからこそそんなおばあちゃんに苦労をさせた母親が許せなかった。「子どもは親を選んで生まれてくる。」と言うフレーズを見たときに「はぁ?」言う気持ちになったのはそのせいでもあるだろう。でも、実際に調べてみると胎内記憶を持っていていて両親の元にきた経緯を話す子がいるのも事実らしく、両親を選んだと言う子もいると言う。自ら親を選んで生まれてきて幸せなら万々歳だ。でも、その少数の例を取り上げて、すべての子どもが親を選んでいるかのように言わなくてもいいじゃないか。  では、私のお腹の子どもはどうだろうか?この子は私を選んで生まれてきたのだろうか?もし、そうだとしたら理由はなんなのだろうか?まあ、このお腹の子が私をわざわざ選んだ可能性は低いと思うがこの子が私のお腹に宿った経緯は気になる。 「柏木さーん!」 そんなことを考えていると看護師さんがやってきた。 「そろそろ、お時間ですので行きましょうかね。」 「はい。」 看護師さんと一緒に病院の廊下を歩く。 「美咲!」 出産に間に合うように今日の仕事を終わらせてきた慶介がちょうど小走りでやってきた。 「けいちゃん!間に合ったのね!お仕事お疲れ様!」 不安だらけだったけど分娩台に行く前に旦那の顔が見れて少しほっとする。旦那は稼ぎも普通だ。見た目もいたって平凡。三平って言えば聞こえはいいが、、、とか言う私も見た目も普通だし、これといって特技もないし、家事もそれほど得意ではない。でも、私たち夫婦の間にはいつも幸せな空気が流れている。きっと私たちより子どもにとって条件の良い夫婦は沢山いるだろう。子どもが生まれたら生まれる前のことを聞いてみたいが別に私を選んだっていって欲しくて聞くわけじゃない。胎内記憶があるかに興味があるだけ。でも、もしこんな私たちを選んだというのなら絶対に後悔させないようにしてあげたいし、仮に私たちのもとに行けと言われてきたといったとしても私たちの元にきてよかったっていってもらえるくらい愛してあげたい。いや、愛してあげる。そんな決意を固め、けいちゃんとしっかり手を握ってバイバイした。 家族が増える。新たな人生の幕開けだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加