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コーヒーショップで①
結局、その日は朝食を食べ、自分ができるところまで片付けた後、立花に声をかけ家路についた。
立花さん…迷惑かけられっぱなしなのに、全然怒らず、むしろ心配ばかりしてくれていたよな…。
申し訳ないしかない…。
本当は真美にふられ、落ち込んでいるはずの真司だったが、立花のことでそんな気持ちもすっかり忘れていた。
そして帰宅した真司は、今日の立花との事を思い出しているうちに寝てしまっていた。
佐々木 真司 28歳。
大学を卒業後、住宅会社で働いている。
仕事での成績はよくもなく…悪くもなく…、いたって普通。
容姿に関しても…どこにでもいそうな平凡顔に、背丈が少しばかり高いだけ。
本当にどこにでもいそうな感じだ。
学生の頃は、なんとかすれば、なんとかなるかもと、色々試行錯誤してみたが、なんともならなかったので、今は小綺麗にするぐらいで、もう学生の頃していたようなこともやめてしまった。
それでも彼がいて平和に暮らしていたが、昨日その彼女にも振られてしまった。
その理由が…、普通すぎる…と。
一生懸命していた真司だったが、そこを突かれてしまうと、もうどうしようもない。
そんな平凡な生活をしていた真司が犯してしまった失態…。
普通な男には非現実すぎることだらけだった。
家に帰り、熟睡していた真司が起きたときは、もう夕方になっていた。
そうだ‼︎立花さんにお礼とお詫びのメールしてなかった‼︎
これは社会人として…いや、人としてしなくてはならないことだ。
いそいで立花にメールをする。
しばらくして、立花から返信メールが届いた。
『そんなに気になさらないでください。こちらこそ、変なお願いをしてしまい、すみません。ご負担になっていないですか?』
真司は立花からの返信を見て嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。
なんと返信したら変ではなく、自分の気持ちを伝えれるか色々考えた挙句、送ったのが、
『全くです。私こそ楽しみにしています。』
今の真司にはこれが精一杯。
いそいで立花に返信をする。
『よかったです。では、佐々木さんからのご連絡お待ちしています。』
立花からの短いメール。
でも真司にとっては、心が温まるようなメールだった。
真司はすぐにでも立花に連絡したかったが、こういう時に限って、仕事が立て続けに入り、バタバタした日々を過ごしていた。
次のお客との仕事と仕事の間に時間ができたので、久々に会社から少し離れているが真司の好きなコーヒーショップに寄ることにした。
あれから立花さんからも連絡ないし…。
今、どうしてるのかな?
あの一件から、真司はなにかと立花の事が気になっていた。
「あ、佐々木さん?」
レジまでの順番待ちで並んでいると、後ろから不意に自分の名前を呼ばれ、真司が振り向くとすぐ後にスーツ姿の立花が並んでいた。
「立花さん!!」
真司は偶然でも立花に会え、嬉しい自分がいることに驚く。
「立花さんもここのコーヒー飲まれるんですか?」
「はい。ここのコーヒーおいしいですよね」
久々に見る立花の笑みは、真司の疲れを吹き飛ばす感じがした。
「そうですよね。ここのコーヒーおいしいですよね」
俺、てんぱりすぎて立花さんと同じこといってるだけじゃん…。
「立花さんはここによく来られるんですか?」
「私の会社はこの近くなので、後輩とよく来るんです」
「そうなんですね…」
あー、俺も会社がこの近くだったらよかったのに…。
毎日でも行く!!
「佐々木さんは、よくこられるんですか?」
「本当は来たいのですが、会社がここから遠いのでなかなか来れなくて…」
「そうなんですね。もし佐々木さんがよくこられるんだったら、私も毎日くるんですけどね」
立花の満面の笑みは眩しいくらで、周りにいた人たちも見惚れていた。
その笑顔を向けられた真司の心臓は、爆発するかと思うほど高鳴った。
「あの…この前のことなんですけど…」
真司が立花に話しかけたとき、
「お次のお客様どうぞ」
「あ、はい」
店員に呼ばれ、真司は急いでレジに向かう。
立花との話に夢中になりすぎて、コーヒーを買うために並んでいる事を忘れてしまっていたのだった。
立花との話を中断され、名残惜しそうにしながらも、真司はいつものコーヒーを注文する。
真司は甘党なので、女子が好きそうな甘いものだ。
「佐々木さんは甘党なんですね」
後ろに並んでい立花が、真司の横からヒョイと顔を出した。
立花さん…ち、近い!!
ドキドキしていると、注文を取っていた店員の女の子も顔を真っ赤にしながら立花を見る。
「あ、今日も同じものにされますか?」
もう、真司のことは目に映ってないかのように、女の子が立花に話しかける。
「今日は彼と同じものにするよ。大きさは一番小さいのでお願いするね。あと2つはいつものでお願いします」
立花がニコッと笑うとその場にいた、男女問わずみんなが頬を赤らめる。
真司も例外ではなく…。
真司はいつもは早く飲みたくなるコーヒーを受け取ると、今日は名残惜しそうにカウンターを離れようとする。
「また、後日」
立花が真司だけに聞こえるよに言う。
真司が答えようとしたとき、
「チーフ、ありがとうございます」
立花の後輩であろう男性が近づいてきた。
「お疲れ様。いつもの買っておいたよ」
立花の笑顔の先は、真司から後輩に移ってしまった。
なんだか寂しいな…。
当たり前のことなんだけど…。
寂しさを隠すように、真司は急いで店を出た。
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