<第一章> 介抱

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<第一章> 介抱

いつも行くバーで出会った佐々木さん。 あんなに飲んだら、さすがに酔い潰れてしまうのも仕方ない。 仕方ないけど、俺の心のどこかで 『このまま酔い潰れてしまわないかな…』と、期待したところもあるのは自覚している。 でないと、多分、佐々木さんは俺のことなんて覚えてなくて、また日常に戻ってしまう。 そんなのは嫌だったんだ。 「佐々木さん、大丈夫ですか?」 佐々木に肩を貸していた蓮が、ソファーに佐々木を座らせた。 が……… あ……やっぱり…… 佐々木は座る力はなかったようで、ぐでぇ〜とソファーに倒れかかる。 とりあえず、ジャケットは脱がさないとシワになるな。 力の抜け切った男性から上着を脱がすのは、結構大変だ。 なぜって… 体がタコみたいにグニャグニャなのに、スーツは伸びない…… 腕を抜こうにもジャケットを引っ張ると破れそうだし、腕を引っ張ると肘で止まる。 こうなることはわかっていたのに…… もっと早めに脱がしておけばよかった。 「佐々木さん、ちょっと力入れますよ。痛かったら言ってください」 多分、いってくれないと思うけど。 すやすや眠る佐々木に、蓮はその都度その都度声をかけながら進めていく。 やっとの思いでジャケットを脱がせると、佐々木の体がグラッと傾き、頭から… 落ちる‼︎ すんでのところで蓮が佐々木の体を掴み取る。 危なかった…… 安心したのも束の間、 佐々木の顔が急に青ざめ…… もしかして‼︎ 蓮が思うより先に 「おぇぇぇ〜〜〜」 !!!! 佐々木がラグの上に、豪快に吐いた。 …………………。 うん。 とりあえず、これは後で片付けよう。 蓮は気持ちを切り替え、佐々木が吐いたところをタオルで覆う。 「佐々木さん、そのままだと余計に気持ち悪くなられると思うので、お水でも……」 蓋を開けたペットボトルを差し出すが、予想通り佐々木が持つことはなく、仕方なく蓮が佐々木の口元までペットボトルを運び、水を飲ませる。 どうか、もう吐きませんように…… 蓮が願いながら、水を飲ませると… 「う"……」 佐々木が少し呻いた。 マズい‼︎ 蓮が佐々木から体を離すと、 「おぇぇぇ〜〜〜」 !!!!!!!! 再びラグの上に吐いた。 …………………。 そうだ、このラグ、そろそろクリーニングに出そうと思ってたんだ。 だから明日………取りに来てもらおう。 そして、申し訳ないけど、佐々木さんには、このまま静かに寝てもらおう。 蓮は佐々木をベットに連れて行こうと、また肩を貸そうとした時、佐々木のシャツが汚れていることに気がついた。 「あれだけ吐けば、汚れるよな」 蓮はボソッと呟き、佐々木のシャツを脱がせた。 まさか、初めて話した相手のシャツを脱がすとは…な。 明日、佐々木さんには、きっちり謝ろう。 そうして蓮はやっとの思いで、佐々木を自分のベットに寝かせ、シワにならないようにスーツのズボンと靴下を脱がせ、 「おやすみなさい」 そっと佐々木を眠らせた。 「それでは…………、ラグとシャツ。片付けますか」 蓮はテキパキと片付け始める。 もうプライベートでは、人と関わらないって決めてたのに、まさかこんな形で関わることになるとは…… それに汚物の片付けまでするとは… 佐々木さんじゃなかったら、 してなかったかもな。 そんな事を考えていた蓮の片付けは、深夜遅くまで続いた。
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