恋煩い ⑦

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恋煩い ⑦

なのに、どうして……… こんな日に限って、『確認お願いします』と、渡された書類のミスが連発。 その書き直しを伝えたり、また確認し直したり…… その間も溜まる自分の仕事… こんな日に限って…… 焼き菓子も買いに行きたいのに…… これじゃあ、約束の時間に間に合わない。 はぁ〜と、今日何度目かの溜息をついていた時、嬉しそうに林が蓮に近づいてきて… 「チーフ…。はい、プレゼントです!」 後ろに隠していた紙袋を、蓮に手渡した。 「このロゴって…」 たしか、林さんに教えてもらったお店のロゴ。 でも、どうして? 林からプレゼントをもらう理由がないと、蓮は首を傾げる。 「チーフ、今日、好きな人と会われるんですよね。だから、その時のお茶菓子か、お土産に使ってください」 林がにっこりと笑う。 誰にもいってないのに… 「どうしてそれを…」 「チーフ見てたら分かりますって。朝からソワソワしてるなって思ったから。だから、昼休みの間、大急ぎで買いに行ってきたんです。…でも、よかったです。今のチーフの顔、とっても楽しいそうで…って、すみません‼︎こんな小娘が偉そうに…」 教えてもらったこのお店、たしか遠かったはず。 まさか… 「林さん…お昼休みに買いに行ってくれたって…。お昼、食べられなかったんじゃ…」 「食べましたよ。おにぎり」 おにぎりって… 美味しくて、お洒落な店探しが好きで、いつも『色々な店でお昼を食べるのが楽しみなんです』って言ってた林さんが、おにぎりって… 「ごめん。気を使わせてしまって…」 蓮は罪悪感からか、目を伏せた。 俺、自分のことしか考えてなかった… 「え⁉︎私、気なんて使ってないですよ。したいことを、しただけです。だから受け取ってください」 林はぐっと紙袋を蓮の方へ突き出した。 「…ありがとう…」 蓮は差し出された紙袋を、大事そうに受け取る。 「チーフ、応援してます。頑張ってください」 フワッと林は微笑むと、また自分の仕事へと戻っていった。 まさか、俺の恋愛を誰かに応援してもらえる日が来るなんて…… 蓮は佐々木に会える事と、林の気持ちが嬉しくてたまらなかった。
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