悲劇のナイフ

1/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

悲劇のナイフ

「悲劇のナイフ?」  思わず声が出た。彼とのデートが急にキャンセルになり、仕方なく自分の部屋で一人スマホを眺めていたときだ。新しいフリマアプリを見つけたのでインストールし、何か掘り出し物はないかと探していたところ、鞘に納まったナイフが目に付いた。オリエンタルな雰囲気の煌びやかな装飾が施されている。骨董品だろうと思い画像をタップすれば、そんな商品タイトルが目に飛び込んできたのだ。  説明文に目を通す。 “ナイフのコレクターだった祖父が所有していたものです。亡くなったので出品します。但し曰く付きの品ですので、ご理解のある方のみご購入ください。詳しくは下記サイトでご確認を”  その下にアドレスが貼られていた。タップすると外部サイトへと飛んだ。  そこは個人のホームページのようだ。呪いの宝石だの死人の椅子だの世界の珍品奇品が写真つきで紹介されている。その中にあった。同じナイフだ。解説にはこうあった。  数百年前、中東のとある王国の王様が、愛する妃の護身用のため特別に作らせたナイフ。ところが運命のいたずらか、妃はそのナイフで国王を殺す結果となってしまった。それを悲嘆した妃も自らそのナイフで命を絶った。ナイフはその後、様々な人の手に渡ることになるのだが、所有した人たちはことごとく、そのナイフで最も愛する人を傷つけることとなる。いつしかそれは悲劇のナイフと呼ばれ、忌み嫌われるようになった。  どうやらそのナイフを鞘から抜くと、悲劇に見舞われることになるようだ。  こんなもの、よほどの物好きしか買う人はいないだろう。どこかの美術館にでも寄贈すればいいのに。と、思うと同時に別の考えが脳裏をよぎる。  待てよ。これは使えるかもしれない。彼の気持ちを確かめるために。  最近ヒロユキの様子がおかしいのだ。何か隠し事をしているような気がする。今日だってそうだ。デートのドタキャンなんて今まで一度もなかったのに。もしや浮気か、それとももう私のことを……。だったらこれで確かめてやろう。  少々値が張る品だったが、思い切って購入ボタンをタップした。 「ワイン、もう一本開けようか?」  空になったビンを手に立ち上がろうとすると、ユウコは「ちょっとぉ」と甘えた声を上げる。 「これ以上酔わせて、どうするつもり?」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!