悲劇のナイフ

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「キャッ」と女たちの悲鳴が聞こえた。  だがどちらもケガをしている様子はない。ただ二人とも目を見開き、俺を見つめていた。  何をそんなに見てる……?  そんなことを思ううち、俺の体はゆっくりと後方へと傾き、仰向けに床へ倒れた。後頭部を強打するも痛みは感じない。  足元にヒトミとユウコが立ち、俺を見下ろしている。その目にはどこか軽蔑の光が宿っていた。  どうしてだよ。なんでそんな目で見る……と、思ううちに気づいた。手に、生温かくてぬるぬるしたものがまとわり付いている。  視線をそちらに向けた。手にはまだナイフが握られたままだ。そのナイフは、深々と俺の腹に突き刺さっていた。そこからジワジワと血がにじみ出てくる。  え?なんだよこれ。どういうことだ? 「忘れてたわ」  その声でヒトミを見る。彼女は冷笑を浮かべながら、 「この男、究極のナルシストだったのよね」 「自分大好きな上に自己中。よく考えたら、どこがよかったんだろ」  二人の女は顔を見合わせ、意気投合したように笑い合う。  おい、何してる。早く救急車を。と言ったつもりだが声にならない。  女たちは振り向きもせず、並んで部屋から出て行った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加