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影の世界の王子様
「──ふ、ッあ」
この時までただのクラスメイトだった男は、数時間前こう言った。
『同居の対価は金なんかじゃなくって──お前の血。いや、もっと厳密に言えばお前をオレにくれたらそれでいいよ』
そりゃ血が欲しいなんて言うんだから、あいつが人間じゃないっていうのは理解したつもりでいた。そのうえで血を吸われるくらいならいいかなって思ったんだ。
「お前をくれたら」なんて、そんなのいつもの軽い冗談だって思っていたから、おれは最初に言われたその条件を快諾した。
「んッ……ぅ!」
何度も、何度も、
角度を変えてはおれの口内を貪るそいつは、
息継ぎをしながらもおれに喋らすだけの隙を与えてはくれない。
「や……め、ッ」
噛みつかれ血液を吸いだされた首筋は、まだジンジンと熱を持ったように鈍く痛んでいる。
だけど口内の唾液を絡めとるような舌の動きに、ぞわぞわする感覚の方が首筋の痛みを上回っていた。
ぼーっとしてきた頭の中で、それでもこの行為をやめさせようと覆いかぶさってくる元クラスメイトの肩を気持ち程度の力で押し返す。
最初はこいつの事なんてあまりよく思っていなかった。
ヤンキーみたいだし、うるさいし、しつこいし、面倒くさいし。
最近は優しいしちょっといいやつだなとか思ってた。
現におれを押し倒している今だっておれはこいつの重さを感じていないのだから、きっと体重が掛からないように配慮されているんだろう。だから優しい奴ってのに変わりはないんだろうけど……。
この夜、こうしてあいつに『捕食』されるまで、
支払うべき対価の、本当の意味をおれはわかってなかった。
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