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あの日!
あの日・・僕達一家は1961年8月12日に買い物に出かけて居た。
比較的食料が豊富なマーケットに週一回の買い物だった。
当時13歳の妹は・・その日丁度、風邪を引いて・・一人、家で休んで居た。
「あなた・・もう10時よ!」と母が運転して居る父に心配そうに言った。
「ア〜わかってる!」と父も時間を気にして居た。
僕は後部座席で・・・街のネオンを観ていた。
キラキラと輝くネオンが、とっても綺麗だった。
「アッ・・もう直ぐ・・11時になるわ!」と母が独り言の様に呟いた。
「どうなっているんだ・・?」と父が渋滞に苛立っている。
「お母さん・・アシュレットは?」と僕は母に問い掛けた。
「ミルク粥を作って・・有るから・・キットあの娘はそれを飲んで寝ているわよ!」と母が僕の心配そうな問いに、優しく答えた。
後・・数キロで・・分岐点迄来ていたが・・・一向に車は進まない。
午後11時30分。
何故かわからないけど・・・進行報告から・・人々が走って来た。
「なんだ?」と父は車のドアーを開けて・・走って居る人々を見た。
父は一人の年配者を捕まえて・・聞いた。
「なんですか?」と!
年配者は・・焦った声で叫んだ。
「また・・戦争だぁ〜〜!!」
母と僕は・・唖然としていた。
父が・・車から・・母と僕を・・引き出した。
「逃げろ・・早く・・走れ!」と父の怒鳴り声。
僕らは・・後方に走って逃げた。
どれだけ・・・走ったかは・・わからない!
人々がごった返す広場にたどり着いたのは・・キット午前0時を過ぎていたと思う。
陽が昇り・・朝が来た。
人々は大声で話して居る。
誰もが・・叫びと泣き声しか聞こえない。
『戦争を始まった!』
誰しもが言って居た。
父と母は・・・特に母は泣き叫んで居る。
残された妹・・・アシュレットの名前を・・何度も何度も叫んでた。
あの日から!
僕達は車を売って・・小さなアパートを借りた。
父は日雇い労働者として働いた。
母は心労から容態を悪くして・・あの日から2年後に呆気無く亡くなった。
父は・・・日雇い労働者として働いて居たが・・あの日から・・酒に溺れる毎日だった。
僕は・・もう・・あの日から25歳になって居た。
あの日から・・・塔から!
僕は・・あの日から・・毎日、毎日・・双眼鏡を覗いて居た。
双眼鏡で覗いて居たある日・・一人の女性が立って居た。
女性は軍服を着て立って居る。
僕の倍率の低い双眼鏡からは・・・顔がハッキリと見えない!
でも・・女性は毎日午後3時に立って居た。
雨でも雪でも・・必ず立って居た。
あの日から数年後!
女性は一人の男性と立って居た。
その男性も軍服を着て居る。
二人は肩を抱き合わせて・・立って居た。
更に、あの日から数年後!
女性と男性は立って居た。
女性の腕の中には・・赤ちゃんを抱きしめて立って居た。
そして、あの日から数年後!
女性と男性と少し大きくなった子供が立って居た。
あの日から25年が経った。
僕は毎日、毎日双眼鏡で覗いて居る。
公園の女性と男性と子供は毎日、毎日午後3時に立って居た。
ある日!
女性と大きくなった子供が立って居たが・・男性の姿は無かった。
そして1989年10月の初冬!
僕は・・50歳近くになって居た。
父は数年前に病気で亡くなった。
それでも僕は、あの日から・・毎日双眼鏡で女性を覗いて居た。
ある日・・一人の若者が立って居た。
手には・・大きな写真をかざして立って居た。
大きな写真には・・黒く縁取りがされた・・女性の顔写真!
あの日から・・僕は始めて泣いた、父母が亡くなっ時さえ涙を流さなかった僕は・・泣いた!
最後迄・・あの日から父母に抱き締めて貰えなかった・・妹アシュレットの事が・・可哀想で可哀想で泣いた。
1989年11月10日
ベルリンの壁は崩壊した。
クリスマス迄・・後一カ月と数日だった。
ー Das Ende ー
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