○○だから‥

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彼は静かに涙を流しながらケーキを食べている。 俺は彼を見ないふりをしてグラスを磨いている。 ひとしきり泣いてスッキリしたのか、お代わりを頼む彼に俺はそっと熱いおしぼりを渡した。 彼の端整な顔が浮腫んでいるのを観るのが忍びなかったから。 「何も聞かないんだね。君は俺の事知っているんだろ?俺がマスターにフラれた事も」 「ブレンドのお代わりになります。自分は店主とは私的な話は殆どしないので、お客様の事情は知らされておりませんし、店で見聞きした事は口外致しませんからご安心を。」 彼はホッとした顔で浮腫んだ顔に熱いおしぼりをあてた。 しばらくして腫れた目を冷やす為に冷たいおしぼりを渡すと儚い笑みを浮かべて 「俺‥君みたいに然り気無く優しくて無口な人を好きになれば良かった。マスターみたいに誰にでも優しい人を選ぶと辛い事ばかりだよ。」 「俺は特に優しいわけじゃないですよ。あなたが誰にでも優しい店主を好きになる相手として選んだ理由があるはずですよ。自分はまだ恋愛がよくわからないのですが‥その時々に出逢う相手は必然なのだと思うんです。何か上手く言えないのですが‥あなたが悪いわけでも、店主が悪いわけでもないかと‥」 「やっぱり君は優しいと思うな。俺がクラスメートだとわかっていても気づかないふりしてくれているし、マスターは君の然り気無い気づかいに魅かれたのかな?」
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