第1話 ‪‪伊東家第一子の場合

1/7
1558人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ

第1話 ‪‪伊東家第一子の場合

伊東奏汰(いとうかなた)(1) 「はい、オメガ産科中田です。どうされました?」 深夜の電話は、緊急性が高い。 本来の月野総合病院オメガ男性専門産科、ナースステーション、助産師中田広幸(なかたひろゆき)…という肩書きの長さは、電話の向こうでは迷惑極まりないだろうから、わかりやすく簡潔に名乗る。 『っう。』 う? 「大丈夫ですかー?」 『……がたがたがたっ。』 うううん! ああああああああぁぁぁ……! 携帯電話落とした音。 電話の奥で叫んでる。 「おーい、大丈夫ですかー。」 『ふー、ふー、ふー。伊東…奏汰(かなた)です。明日が出産予定日で、今朝からおなか痛くって。』 傍のタブレットを開く。 イトウカナタ…検索…いたいた。 伊東奏汰(いとうかなた)25歳、番の有無、有り。 39週6日 妊夫検診では異常なし…か。 予定日が明日。 えらく順調だな。 「はい、伊東さん39週6日ね。朝って何時頃から痛い?陣痛の間隔は?」 『朝5:30に起きてすぐおなか張ってるって気がついて…昼過ぎにはおしるしもあったし……30分前からやっと10分間隔になったので電話しました。』 おしるしもきてるのか、予定日だし、うん、本陣痛かもしれない。 目安として陣痛の間隔が10分になったら連絡してって言ってある。 でも初産では10分間隔になっても、出産迄はまだまだ時間がかかる場合が多い。 もちろん順調に進む場合もあるから、この目安が一番なんだけど。 タブレットに第一報入電時間と、陣痛の間隔10分と追加する。 それと来院すると、緊張のせいか陣痛が遠のく場合も多い。 伊東さんの場合、これまでが順調過ぎて、診察しないと分からないが、目安に沿って来院してもらう方が安全だろう。 「伊東さん、今から来院できますか?どなたか付き添いできる方はいらっしゃいます?」 『はい、伊東瞬(いとうしゅん)に…パートナーのクルマで来院する予定です。』 「今から来院で…どれくらいで着くかな?」 『瞬…何時に来れる?って…うん、あ20分で着くかと思います。』 「分かりました。気をつけていらしてくださいね。お待ちしております。」 『お願いします。』 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ 第一報入電23:48 伊東奏汰(いとうかなた)25歳 39週6日 陣痛の間隔…10分 初産 (つがい)の有無……有 ・伊東瞬(いとうしゅん)24歳 バースプラン ・フリーバース ・パートナー、瞬の入室のみ希望 ※初産なのでプランが浮かばないので、その都度いいプランがあれば提示して欲しい。 パートナーのクルマで来院するとの事だったので、夜間のドアを教えて入院準備を整えた。 夜間の入口は、正面の自動ドアの右手にある。 アイビーを這わせた壁がドアの前に有り、パッと見ドアなんてどこにあるのか分からない様になっている。 ナースステーションで定期報告を打ち込んでいたらインターホンが聞こえたので、モニター確認、誰何(すいか)して解錠する。 予告通り20分程で来院。 伊東奏汰さんである。 パートナーに支えられ、ふらつきながら来院した。 触診しないと分からないけれど、パッと見、だいぶ胎児が降りてきてるかな。 「こちらへどうぞ!」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!