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第1話 伊東家第一子の場合
伊東奏汰(1)
「はい、オメガ産科中田です。どうされました?」
深夜の電話は、緊急性が高い。
本来の月野総合病院オメガ男性専門産科、ナースステーション、助産師中田広幸…という肩書きの長さは、電話の向こうでは迷惑極まりないだろうから、わかりやすく簡潔に名乗る。
『っう。』
う?
「大丈夫ですかー?」
『……がたがたがたっ。』
うううん!
ああああああああぁぁぁ……!
携帯電話落とした音。
電話の奥で叫んでる。
「おーい、大丈夫ですかー。」
『ふー、ふー、ふー。伊東…奏汰です。明日が出産予定日で、今朝からおなか痛くって。』
傍のタブレットを開く。
イトウカナタ…検索…いたいた。
伊東奏汰25歳、番の有無、有り。
39週6日
妊夫検診では異常なし…か。
予定日が明日。
えらく順調だな。
「はい、伊東さん39週6日ね。朝って何時頃から痛い?陣痛の間隔は?」
『朝5:30に起きてすぐおなか張ってるって気がついて…昼過ぎにはおしるしもあったし……30分前からやっと10分間隔になったので電話しました。』
おしるしもきてるのか、予定日だし、うん、本陣痛かもしれない。
目安として陣痛の間隔が10分になったら連絡してって言ってある。
でも初産では10分間隔になっても、出産迄はまだまだ時間がかかる場合が多い。
もちろん順調に進む場合もあるから、この目安が一番なんだけど。
タブレットに第一報入電時間と、陣痛の間隔10分と追加する。
それと来院すると、緊張のせいか陣痛が遠のく場合も多い。
伊東さんの場合、これまでが順調過ぎて、診察しないと分からないが、目安に沿って来院してもらう方が安全だろう。
「伊東さん、今から来院できますか?どなたか付き添いできる方はいらっしゃいます?」
『はい、伊東瞬に…パートナーのクルマで来院する予定です。』
「今から来院で…どれくらいで着くかな?」
『瞬…何時に来れる?って…うん、あ20分で着くかと思います。』
「分かりました。気をつけていらしてくださいね。お待ちしております。」
『お願いします。』
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第一報入電23:48
伊東奏汰25歳
39週6日
陣痛の間隔…10分
初産
番の有無……有
・伊東瞬24歳
バースプラン
・フリーバース
・パートナー、瞬の入室のみ希望
※初産なのでプランが浮かばないので、その都度いいプランがあれば提示して欲しい。
パートナーのクルマで来院するとの事だったので、夜間のドアを教えて入院準備を整えた。
夜間の入口は、正面の自動ドアの右手にある。
アイビーを這わせた壁がドアの前に有り、パッと見ドアなんてどこにあるのか分からない様になっている。
ナースステーションで定期報告を打ち込んでいたらインターホンが聞こえたので、モニター確認、誰何して解錠する。
予告通り20分程で来院。
伊東奏汰さんである。
パートナーに支えられ、ふらつきながら来院した。
触診しないと分からないけれど、パッと見、だいぶ胎児が降りてきてるかな。
「こちらへどうぞ!」
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