生徒会室の秘めごと(生徒会室シリーズ5)

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「あ、矢追(やおい)先生」  生徒会室には、二年生の根室(ねむろ)悠太(ゆうた)君しかいなかった。 「珍しいわね、根室君一人なんて」 「一人じゃないっすよ。柴山(しばやま)先輩がちょっと席外してるんで」  確かに、よく見ると机の上に開いたままのノートパソコンが置いてある。ということは、あれは<副会長>かつ三年生の柴山(しばやま)紀子(のりこ)さんのだろう。 (他には、まだ誰も来てないみたいね)  今は学校祭の準備期間だから、放課後ずっと生徒会室に入り浸れるわけではない。たとえ会長や副会長であっても、クラスの出し物には何らかの形で参加しなければならない。 「根室君」  後ろから覗き見ると、生徒会ブログの更新をしていた。基本的にここでは寝てることが大半な根室君だが、珍しくちゃんと起きている。 「今日は調子が良いの?」 「えぇ、まぁ」  生徒会ブログの更新は、<書記>である彼の仕事だ。最終的なチェックは<広報>の蝉川(せみかわ)(たくみ)君を通すものの、彼が言うにはほとんど修正点がなく、せいぜい誤字脱字のチェックをするくらいだそうだ。  普段の記録などは<会計>の原田(はらだ)幸太郎(こうたろう)君が自分の仕事と兼任してくれているが、このブログの更新だけは、根室君がやっている。やらされているのではなく、彼自身の意思で。 「生徒会の方はどう? クラスの方は問題なさそうだけど」 「こっちも特に問題ないっすよ。授業中に寝させてもらってるんで、『いつも寝てる変な奴』で通せる程度で済んでます。末永(すえなが)先輩と原田がいろいろ根回ししてくれるんで、書記の仕事も滞りないですし」 「原田君も知ってるの?」 「えぇ。最近、書記の仕事を兼任してくれてるのは原田ですし」 「じゃあ……末永さんが卒業した後も安心ね」 「そうっすね」  根室君を生徒会にスカウトしたのは、もう一人の<副会長>かつ三年生の末永(すえなが)小百合(さゆり)さんだ。ぼんやりしているようで頭の回転が早く、何より、文章を書くことにも長けているというのが表向きの理由だ。  もちろん、嘘ではない。成績自体は中の上か下といったところだが、読書感想文や作文などは、毎年必ず何らかの賞をもらっている。部活動や学業と比べると地味で、表彰されることもないけど、文章力は生きていく上で必要なスキルだ。だからこそ、生徒会にスカウトする理由として自然に通ったのだ。  実際のところは、根室君が高校生活を滞りなく送れるようにと『眠れる場所』を提供してくれたのだった。 「……他のみんなには、やっぱり言わないつもり?」 「えぇ。不治の病ってわけでもないのに、変に気を遣われるのダルいっすし。二人に知られたのもたまたまなんで」 「そうなの?」 「発作を起こした現場に、二人がそれぞれ居合わせたもんですから」  キーボードを叩きながら答える根室君の口調は、まるで他人事のようだった。かえって、こっちが心配になってしまうくらいに。
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