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「まぁ、今以上に支障をきたすようになったら言いますよ。迷惑かけたいわけではないんで」
「……そう。あまり根詰めないようにね」
「了解っす」
根室君がノートパソコンを閉じて、ふぁと欠伸をする。下書きが終わってひと眠りするのだろう。蝉川君の目を通さないと投稿できないので、どのみち今の彼にやることはない。
「あ、さっきも言ったっすけど、柴山先輩がもうすぐ戻ってくるんで、留守番は問題な……」
限界がきたのだろう。私の返事を聞く前にバタンと倒れるように机に突っ伏した。
(原田君か……)
原田君はまだ一年生ながらも気が利いて、非の打ち所がない良い子だけど、要領のいい末永さんと違って、実直で真面目過ぎるきらいがある。根室君が卒業するまでの間、ずっと彼一人で支えるというのは正直、荷が重いような気がする。
(蝉川君にも伝えた方がいいんじゃないかな……?)
根室君と同じ二年だし、生徒会メンバーとしては彼の方が、根室君と付き合いが長い。それに、蝉川君は軽薄そうに見えて気配り上手だし、末永さんのような要領の良さもある。
とはいえ、決めるのは彼自身だ。私の一存で勝手なことはできない。
ふと、開いてあるパソコンに目をやる。何気なく開いてあるパソコンを見ると、ワードが開かれていた。見たところ、生徒会関係の文書ではないようだが……。
(え……っ?)
画面上に展開されている文字の羅列を見て、私は息を呑んだ。眼鏡の位置を直して、食い入るように画面を見つめる。
そこには、二人の男がいた。
二人は熱い眼差しをぶつけ合い、そして――
「矢追先生?」
扉の音と人の声がして、反射的に振り返る。柴山さんだった。
瞬間、私は我に返った。
(何やってるの私いいいいい!?)
「こ……これ……」
「あぁ、私が書いたやつです」
「あっさり答えた!? 先生に見つかったのに!?」
「別に誤魔化す理由もないでしょう。パソコン自体は生徒会の活動のために持ってきてるわけですし。第一、BL小説を学校で書いちゃいけないって校則はないでしょう?」
「校則以前の問題よ!! こんなの、学年主任にでも見つかったら、た……大変なことに……」
「せいぜい一日没収されて終わるだけですよ。データはUSBにもサーバーにもありますから、特に問題ありませんし」
「私が怒られるの!!」
「あぁ、それもそうですね。すみません」
面倒くさそうに納得されてしまった。
(……これじゃあ、何か私が駄々をこねてるみたいじゃない)
柴山さんが全く動揺しないから勘違いしそうになるが、私は間違ったことは言ってない……はずだ。
「トイレで席を外してただけだったんで、そのままでも問題ないかと思ったんですけど……これからは閉じていきます」
「だから、そういうんじゃ」
「先生もBL好きですよね?」
「え!?」
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