2人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
============
「依頼されてた書類持参しました」
「おお待ってました!! それで…」
「まぁとりあえずこの証拠写真を見てからでもいいでしょう」
「横文字は分からん。格好つけるな」
「すんません…」
探偵の依頼が来た陽気な日曜日。張り込んで追いかけ回した寒空の木曜日。これが生業ってわけじゃないが人に取られるくらいなら…となんでも仕事をこなす。もう貧しいのはこりごりだから…
「ズバリッ… あんたの奥さん、浮気してるよ…」
「えぇ! くっそーッ 別れてべっぴんさんもらい受けてやる~ッ!! あんたも付き合ってくれっ」
「よっしゃ、ただ酒飲めるっ」
依頼人と言う名の迷い人とともに夜の街を繰り出した。帝和の夜明けは早い。夜明け前を感じさせないモノで溢れていて…
20××年… 我が国・和泉は活気だっていた。
鎖国から400年は経った今、空前絶後の大貿易時代を迎え他国からの物があふれ異文化の交流は私たちに新鮮な息吹をもたらした。
人々は恋に遊びに踊り明かした。
そんな中でコンクリートジャングルこと眠らない街・帝和… 職場や家庭内には非業の死を迎えた人々の話で持ちきりになっていた。
この国は世界に目を向ける前に解決しなければならない問題をいくつも抱えている。内にも外にも敵。休めない現実がそこにはあった。
俺の名は川崎隼人(20) 和泉(国名)・帝和部(部名)・天鳳区(区画名)・喜楽町(町村名)在住。
身長191センチとたいていの人は見下ろせる。家族からは筋骨隆々だって言われてる。
自己分析では喧嘩っ早く難しいことを流しがちであったのだが、家族が一人欠けた今、リーダーとしての自覚を持ってからは以前のテキトースタイルは脱色できたように思える。
書類とかも判を押す前にめっちゃチェックするし… なんつーか抜けた穴のデカさを実感している。大黒柱として家族の収入源を支えている…はず。
この街にはもう5年、実家はもう無いけど多良木と言う南方の和泉の島。普通の人間は立ち寄ることも出来ない。
表向きは辺りを立ち込める猛毒スモッグやらウイルス感染の可能性やらで封鎖されている。
実態はエネルギー資源の産出や人体実験等、利権絡みの黒い話ばかり。
次は誰がやられるのかといそいそと忙しない殺るか殺られるか玉の取り合いが繰り広げられているらしい。
あの島を離れた今、全く情報が入ってこない。先に述べたのだって、たまにマジ情報を挟んでくる過激系雑誌で閲覧できるような公開されてるモノだけだ。
多良木は存在を消され暗雲立ち込める名もなき島として…住人は存在しないことになっている。出るも入るもないのは当たり前のことだった。
「帝和部・西門区では厳戒態勢の下、市民にも注意を呼び掛けており…」
ニュースを見ながら家族で朝食をとる。
昨日は終電まで飲みに飲んだものの二日酔いなく朝食を迎えられている。
【わっしょい殺し殺人事件】 ネーミングセンス抜群だ、警察はコピーライターでも雇っているんだろうか…
ここ帝和でホットなニュースと言えばみんなこれを指す。ビルからの飛び降りのことだ。
自殺か他殺か断定できない案件なのだが、死体のそばでは『わっしょい、わっしょい』とお祭り気分でアゲアゲな奴らの声がすると言う。
都市部に位置するここでは規制を潜り抜け非合法なものならいくらでも存在するという。
買えないものはないとまで言う声もある。深夜にもなると異文化交流もお盛んになり町はカオスと化す。そんな帝和が俺は好きだ。
「飛鳥、お前んとこじゃねぇか?」
四人用のテーブル席、向かいに座る女子高生に言う。
「西門区って言っても北は成瀬、西は戸川と広いです。事件現場の岩田とか岩泉なら結構離れてます」
「そ、そうか…」
十七のマセガキに俺はタジタジ。
…ぶっちゃけた話、学のない俺は優秀なこの子に泣かされないよう、威厳をキープするので必死。未成年ってのはホント怖い…
「僕の彼女なら岩田に住んでるよ」
隣の席の同い年はご飯粒を飛ばしながら言う。くちゃくちゃ食いやがって…
「愛、お前飯食いながらしゃべるな。あとくちゃくちゃ止めろ」
「ごめん」
ハンセ~と口を塞いでる同い年。憎めないのよなぁ、コイツは。
「…紗耶香、もう出んのか?」
食事を終えリビングで慌ただしくしてるブラウス姿の女に俺は言う。
最初のコメントを投稿しよう!