オモイデキリウリ

　彼は、僕の大学時代の作品を読んでいる。初めて書き上げた、オモイデキリウリだってもちろん読んでもらった。
　購入者が彼だったなら――いろいろと合点がいく。

　購入者が誰なのかを解き明かそうとは思わない。
　予想通り彼が購入者だったとしても、僕はこれからも本を書くし、出品するだけだ。
　今、僕らの関係は出品者と落札者。
　それ以上でもそれ以下でもない。

　僕が小説を書き、本を出品しているのは単なる趣味。
　それが、小説に、本気で挑まないと決めた僕の流儀。
　こんな僕が、今の彼に、どんな言葉を吐けるというのだ。

　だから僕は、ただ、素直に事実だけを受け止める。

　誰かが、僕の本を買ってくれている。

　買ってくれた人のことは、登録されたハンドルネームしか知らない。
　だけどその人は、僕は本を出品するたびに、必ず買ってくれた。

　思い出を細かく切り刻んで、小綺麗に盛りつけたような。そんな僕の本を、この世界の、誰かが買ってくれているんだ。

　僕らの関係は、ただ、それだけだ。

　　　　　　終わり