オモイデキリウリ

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 あれからも、僕は小説を書いている。  書き溜めると本にして、また出品する。本はいつも、同じ人が落札してくれた。  本を買ってもらえることは嬉しかった。  しかし、購入のやり取り以外の連絡を、その人とすることはなかった。  向こうから、作品に対する感想が届いたこともない。  もしかして本を買ってはいるが、読んではいないのでないかとも考えた。だが、そんなことをする理由がまるで分からない。  ……というのは、嘘だ。  僕は、恐らくこの購入者を知っている。  もしもこの本を買っているのが"彼"なら、色々と納得がいく。  "彼"とは、大学の文芸部で一番親しかった。  今よりも小説執筆に熱心だった僕は、将来小説家を目指していた彼との小説談議が好きで、そして彼の書く作品が大好きだった。  彼は大学卒業後、就職の道を選ばなかった。もちろん、進学もしなかった。
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