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次の日、朝からドキドキしながら学校へ行くとすでに大勢に囲まれる沢口くんがみえた。メールで話すのには慣れてきたが、やっぱり面と向かって話す勇気はまだないなと頬が熱くなるのを感じながら自覚する。
アタシは自分の席に着くとバックから月の刺繍袋を取り出す。ちゃんと沢口くんに届きますようにと願いを込めて机の横にかける。
◇
4時間目の音楽が終わり、音楽室から教室に返ってくる。机の横にはまだ紺色の和柄袋をぶら下がっている。
はぁ~よく考えたらクラスには人がいっぱい居て、人気者の沢口くんがアタシの席に一人で来るなんてやっぱり無理だよね。
ポーン
足が袋に当たると袋がくるくると回り、太陽の刺繍が見える。
たいよう?タイヨウ?太陽?太陽!
えっ!なんで!
アタシの胸は急にドキドキと激しい鼓動が上げる。頬が熱くなる。
袋を開けてみるとそこにはツーピースが入っていた。
うそ?本当に?
アタシの目に涙がたまってきたので、バレないように慌てて机に伏せた。
なんで?いつ交換したの?ってかホントに交換してくれた。
好きな人の好きな漫画を借りて、好きな人にアタシの好きな漫画を貸す。みんなには秘密の交換。アタシは沢口くんの彼女でもないし、沢口くんがアタシなんかを異性として相手にしてくれるなんて思わないけど、けどこんなの嬉しすぎるよ。アタシの頭の中には様々なことが流れる。けど、ただ嬉しかったというのが素直な思いだ。沢口くんと秘密の漫画交換が出来たよ。袋をギュっ抱き締める。
はぁ~アタシ沢口くんが気になるなんて思ってたけど、今日気付いたよ。アタシ沢口くんが好きだ。
◇
『なんとか交換出来たよ!』
帰宅してからスマホを確認すると、沢口くんから連絡が来ていた。アタシは思わずまた漫画の入った太陽の刺繍袋を抱き締める。
そうするとまたあの時の喜びが込み上げてくる。ヤバい、また泣きそう。
涙をハンカチで拭きながら返事を書いた。
『ホントびっくりしたよ!いつの間にか変わってて。沢口くん人気者だからやっぱり無理かもって思ってたし。』
『西宮さんの為に頑張ったよ。』
ドキン。
西宮さんの為に頑張ったよ・・
西宮さんの為に頑張ったよ・・
アタシの頭の中でこの言葉が木霊する。スマホは手から滑りおち、仰向けでベッドに倒れる。
キャーーーキャーーー
胸の鼓動と身体中が熱くなり、心の声が抑えられなくなり、叫びながらベッドを高速でゴロゴロする。
その後のやり取りは嬉しさで身が入らず、心ここにあらずといった感じで全然記憶になかった。
一応あとで内容を見たが特に迷惑なことも送ってなくて一安心した。
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