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「あ、でも今日は私午後半休なんだった」
時計の針はまだ16時半を指している。入籍の準備に時間をかけようと休みをもらったのに。
婚約祝いだってたくさんしてもらったのに。
「なんて謝ればいいのよ……」
急にむなしさがこみ上げてくる。元カレにさんざん振り回された春奈の幸せを、自分事のように祝福してくれた友人に申し訳がない。母親にはなんて説明すればいいのだ。
「どうして……」
春奈の目から、雫がこぼれ落ちた。
「泣くつもりなんてなかったのに」
一度落ちた涙は次から次にあふれ出てくる。達彦さんのこと、好きだったんだなぁ。泣いてからようやく自分の想いに気が付く。
ふぅ……、と大きく息を吐く。前と同じことが起きただけじゃない。浮気にはもう慣れているはずじゃない。自分に言い聞かせる。
それでも苦しかった。浮気を許さないという決意はできるようになっても、信じていた人からの裏切りにはどうしても慣れないものだ。
「とりあえず、連絡いれよう」
もう銀行の定時を過ぎたころだ。難波先輩にメッセージをいれる。
『聞きたいことがあります。明日、空いてませんか?』
本当は明日の土曜日は、達彦さんと結婚前最後のデートをする約束だった。
達彦さんが帰ってきたら、浮気を白状させるのだから問題ない。
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