帰宅

4/5
前へ
/99ページ
次へ
「あ、でも今日は私午後半休なんだった」 時計の針はまだ16時半を指している。入籍の準備に時間をかけようと休みをもらったのに。  婚約祝いだってたくさんしてもらったのに。 「なんて謝ればいいのよ……」 急にむなしさがこみ上げてくる。元カレにさんざん振り回された春奈の幸せを、自分事のように祝福してくれた友人に申し訳がない。母親にはなんて説明すればいいのだ。 「どうして……」 春奈の目から、雫がこぼれ落ちた。 「泣くつもりなんてなかったのに」 一度落ちた涙は次から次にあふれ出てくる。達彦さんのこと、好きだったんだなぁ。泣いてからようやく自分の想いに気が付く。  ふぅ……、と大きく息を吐く。前と同じことが起きただけじゃない。浮気にはもう慣れているはずじゃない。自分に言い聞かせる。  それでも苦しかった。浮気を許さないという決意はできるようになっても、信じていた人からの裏切りにはどうしても慣れないものだ。 「とりあえず、連絡いれよう」 もう銀行の定時を過ぎたころだ。難波先輩にメッセージをいれる。 『聞きたいことがあります。明日、空いてませんか?』 本当は明日の土曜日は、達彦さんと結婚前最後のデートをする約束だった。 達彦さんが帰ってきたら、浮気を白状させるのだから問題ない。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

228人が本棚に入れています
本棚に追加