ホテルのカフェ

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ホテルのカフェ

 入ってきたのは、ホテルのロビーにあるこじゃれたカフェだった。 「それで、未来から来たっていうのは本当なの?」 春奈の口から最初に出た質問はそれだった。女もそのことに対しておかしいと思ったのか、ふふふっと声を上げて笑う。 「まあまあ、そう焦らないでください。私の名前は、三船七海。銀行事務をしていて、達彦さんとはそこで知り合ったんです」 達彦はたしかに、銀行で働いている。しかし、銀行の本社に努めているから今のところ支店で事務をしているであろう彼女とは接点はないはずだ。 「はあ。三船さん、ね。私は、坂木春奈」 彼氏の不倫相手になると言っている相手に挨拶をするのも(しゃく)だったが、相手が名乗ったのを聞くと名乗らざるをえなかった。 「春奈さん、ですよね。よく、知ってます。あなたはメーカー勤めなんでしょう」 さすが、春奈を会社ビルの一階で待ち伏せしていただけのことはある。春奈の仕事のことも知っていても不思議ではなかった。 「なぜ私のことを?」 「達彦さんがよく言っているから。あなたの話。とても良い奥さんだって」 とても良い奥さんなら、不倫なんてしないはずだ。春奈は眉をひそめる。 「良い奥さんだから、窮屈でたまに羽を伸ばしたくなるんですって」 「何よそれ」 そんな言い訳をする男、最低だ。達彦がもし結婚後本当にそんなことを言っているとしたら、許せない。いや、彼に限ってそんなことはないはずだ。 「最低ですよね。私はそれをわかってて、それでも彼と付き合っていきたいんです。でも、春奈さんは達彦さんの不倫がわかった瞬間、証拠を集めて別れようとするんです。彼は別れたくないから、もう裁判沙汰にもなるしめちゃくちゃで」 たしかに、彼の不倫がわかったとすれば私はそのような行動をとるだろう。不倫をすれば即、離婚を言い渡すことも彼には伝えてある。 「だから、私春奈さんと達彦さんの結婚を止めに来たんですよ。まあ、本当にタイムスリップがうまくいくとは思ってなかったんだけど」 三船七海はそう言って、首にかけてあるペンダントを見せてきた。 「これ、占い師のおばちゃんにもらったの。この砂時計がなくなるまでこっちにいれるんですって」 まだほとんど砂が落ちていなかった。こっちの世界に来てすぐなのだろうか。いや、本当に彼女が未来から来たのだと信じるにはまだ早い。
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