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「一緒にいて、楽だから」
春奈の結婚の決め手はそれだった。一緒にいて、最初は好きだったところも嫌になることはあった。だけど、ずっと気を抜いていられる。気を遣わない楽な相手だった。婚期の迫っている春奈には、それ以上結婚相手に求める要件はなかった。だから、プロポーズされたときにすぐにOKの返事を出したのだ。
「でも不倫されたら別れるんでしょう?」
三船七海はどうしても別れる方向にもっていきたいようだった。
「不倫されたら、別れるわ」
「不倫されたからこうなっているんでしょう」
三船七海は、不満げだった。
「あなたの言葉がまだそんなに信じられないのよ」
春奈は、コーヒーを一口飲む。苦味が体に染みわたる。深い味わいだ。
「じゃあいい。春奈さんが知らない達彦さんのこと教えてあげます」
どうしてこの女は、婚約者に対してこうも上から目線なのだろう。春奈は再びいらっとしたが、コーヒーを飲んで心をなんとか落ち着かせた。
「なによ」
「達彦さん、今社内不倫してるわ」
春奈は三船七海の発言に度肝を抜かれた。
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