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「社内不倫? そんなことをしているわけないじゃない」
春奈は思わず反論する。入籍を二日後に控えた達彦が、いくらなんでも社内不倫だなんてありえない。
もうこんな女のたわごとには付き合っていられない。春奈は自分の財布を探り始める。
「待ってください、春奈さん。本当なんです。だから達彦さんは支店に飛ばされてきて事務の私と出会うんですよ」
春奈は、手を止めた。なるほど、本社勤務の達彦がなぜ支店事務の三船七海と出会うのか不思議だったが、それなら合点がいく。だが、不倫だなんて。
「達彦さん、浮気癖があるんです」
春奈は再び三船のことをまじまじと見た。彼女はいたって真剣な顔をしている。ピンクのハイヒールを履いているが、別に馬鹿な女には見えない。嘘をついているのではない、そんな気がしてきた。
「浮気癖?」
「気づいてないですか、なにも」
春奈は、その時過去の嫌な記憶を思い出した。達彦と付き合う前の男に、春奈はさんざん浮気をされた挙句振られたのだった。もうあんな恋はしない、そう誓っていたのに。
「達彦さんのスーツの内ポケット、今度見てみてください」
三船七海は、自信ありげにそう言い放った。
「なにがあるのよ」
「彼、やましい情報はすべてそこに隠すんです。それでスーツは絶対に自分でクリーニングへもっていこうとする、そうでしょう」
たしかに、家事をあまり手伝わない達彦が頑なにスーツだけは自分でクリーニングへ持っていこうとする。以前から不思議だった。
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