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「わかった。そこまで言うなら、達彦さんの上着のポケット確認してみるわ」
春奈はため息をつく。その言葉を聞くと嬉しそうに、三船七海が満面の笑みを浮かべた。
「ぜひ、お願いします。それで、もしも社内不倫が本当だったら春奈さんはどうしますか?」
そうね……。春奈は考え込んでみたが、答えはもうすでに出ていた。結婚前に社内不倫をしていることが発覚すれば、即別れるに決まっている。けれど、これでまた婚期が遠のくのだと思うと残念な気がしてならなかった。
「別れる、でしょうね」
「よかった」
三船七海はほっとした顔を見せた。この女はなぜ、社内不倫をした末に飛ばされてきた男に惚れたのだろう。無邪気だなんだと言っていたが、そこまでして付き合い続ける価値があるとは思えない。
「なぜ、あなたはそこまでして勝彦さんにこだわるの」
「達彦さんは私のヒーローだから」
三船七海はそう言って笑って見せた。理解ができない。仕事で何か助けられたのだろうか。女は案外、そういった優しさにコロッといってしまうものだ。けれど、浮気を一度許したらろくなことがない。それは元カレとの恋愛を通して、春奈が唯一学んだことだった。
「今までの話が全て本当なら、あなただってこれから浮気されるに決まっているのに。それでも良いの」
「良いんです。達彦さんをそばで支えられるのならそれで」
三船七海はまるで、昔の春奈だった。彼女の砂時計はもう砂がほとんど残っていない。
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