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「よし」
春奈は気合を入れ直した。
気持ちも少し落ち着いたところだし、スーツの中を確認しなければならない。
「同棲でよかった」
そんなことを思いながら、達彦さんの部屋にそっと入る。
二日後に夫婦になる予定だったとはいえ、他人のプライバシーに入り込むのは気が引ける。
もしも、浮気が勘違いだったのなら土下座して謝ろう。
達彦さんのスーツは、ウォークインクローゼットの中にしまわれていた。いくつか種類があるが……。
「昨日着ていたのはこれね」
春奈はスーツを見分けるのが得意だった。
スーツの内ポケット、か。
春奈は深呼吸をして、スーツの内ポケットを探ってみた。
「あ」
何か紙が入っている。
『○○ホテル』
ピンク色で、いかにもといった雰囲気の漂う会員カードだった。
一応、と日付を確かめる。最新は先週の金曜日。
「完全に黒じゃない」
春奈は意外と冷静だった。
「さて、どうしよう」
予告されていたこととはいえ、以前の春奈ならここで取り乱していたところだろう。強くなったというべきか、不幸に慣れてしまったというべきか。
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