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2.
「――で、そのアプリで買ったのがコレなの」
私は胸元で輝くパワーストーンのお守りを指さした。お守りとしてだけでなくアクセサリーとしての造形も気に入っており、良い買い物をしたと思っている。
元カレへの恨みを売り払った私は気分一新、学生時代からの友人K子と飲みに来ていた。
「でもさー、普通<恨みを買う>って言ったら人から恨まれることだけど、今はなんでも売ったり買ったりできるもんだねえ。……てか丑の刻参りマジでやったの?白装束着て?鉄冠被って??マジで???」
K子は私の丑の刻参ラー姿を想像してツボに入ったらしくケラケラ笑っている。
言われてみれば我ながらよくやったものである。当時は煮えたぎる恨みに燃えて気づかなったが、夜中に目立つ格好で誰にも見られず丑の刻参りを遂行できたステルス性能は私の才能なのかもしれない。そういえば元カレにも「お前存在感無さ過ぎなんだよ!」と捨て台詞を吐かれたっけ。
ただ私には丑の刻参りを遂行する才能はあっても、恨みを継続的に持ち続ける才能はなかった。いらなくなってしまった私の丑の刻マイルは、この世のどこかで必要とする人のもとで役立てられていることだろう。
「それはそうとさ、今日Sさん遅くない?」
私はそわそわと時計を見る。SさんはK子の元同僚にしてこの店の常連、そして何を隠そう私の新たな想い人なのだ。長身爽やか、笑顔の眩しいスポーツマン。毎週火曜日には決まって姿を現すのだが。
「あれ、知らない?Sさん交通事故で入院してるらしいよ」
「入院!?」
K子によると、Sさんはバイクで走行中スリップして壁に激突、命は助かったが全治三か月の重傷らしい。
「ええそんな……お見舞いに行かなきゃ……」
Sさんの不幸は悲しい。しかしこれはもしや距離を縮めるチャンス!?などと不埒なことを考える私に、K子が複雑な表情をする。
「いや……やめた方がいいと思うよ。今まで黙ってたけど、Sさんて結構女絡みの悪い噂がある人でさ……」
いわく、長身イケメンたるSさんはモテ男であり、同時にあちこちでつまみ食いをやらかす女たらしでもあった。そのため現在彼の病室に我こそが本命という複数の女が現れ、さながら修羅場の様相を呈しているという。
「そんな人だったの……」
「Sさんのこと気にってたみたいだったから、言いづらかったんだけど……」
「ん…ありがとK子。教えてくれてよかった」
慣用句的に正しく「恨みを買っていた」Sさん。どうも私は女癖の悪い男ばかり好きになってしまう。しかし新たな恋の芽が摘まれたからといっていちいちへこむ私ではない。
「この話はもう終わり!今日は飲も飲も!」
かわいこぶる必要のなくなった私は次々と酒とつまみを注文する。K子との話題はフリマアプリの話に移っていった。すっかりできあがったK子が提案する。
「この際使わないものみーんな出品してスッキリしちゃえば?断捨離とか流行ってんじゃん」
「えーでもガラクタばっかりだよ。売れるものなんてないと思うけどなあ」
あまり乗り気でない私に、そうでもないよ、とK子がゆらりと笑った。
「あんたが要らなくなったものが、私にとってちょうど必要なものだった、ってこともあったくらいなんだからさ」
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