丑の刻参ラー(ズ)

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1.  浮気した挙句私をソデにした元カレに復讐するべく、丑の刻参りを始めてはや五日。満願まであと二日となったところで事情が変わった。新しく好きな人ができたので元カレがどうでもよくなったのである。  とはいえせっかく人に見られることなく五日まできたのだ。無駄にするのもと思っていたところ、愛読する節約サイトでフリマアプリが紹介されていた。  時代はアウトソーシングにしてクラウドソーシング、ネットで売れるのは物品ばかりでなくスキルや知識も対象である。イラスト専門、ハンドメイド専門などフリマアプリも個性化する中、そのアプリはプロの坊主や拝み屋もご用達のネット界の鬼市であった。  夜となれば明かりひとつない平安の世ならいざ知らず、丑三つ時でも煌々と明かりの照る現代において「深夜の神社で誰にも見られず藁人形を打つ」という条件を満たすのはなかなか難しく、世の丑の刻参ラー達は足りない分だけ人が貯めた丑の刻マイルを買って満願成就の足しにしているという。  現代の丑の刻参りがマイル形式なのはオカルト系スピリチュアル女子の間では常識らしく、件の節約サイトにも<マイルを貯めてお得に報復!>とポップな字体の記事があったくらいである。  私は早速、貯まった丑の刻マイルを出品することにした。「五日モノ」は珍しいらしくすぐに買い手がつき、代わりに私はその売り上げで、新たな恋に羽ばたくべく恋愛成就のお守りを買ったのだった。
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