魔法少女変身セット。税込み3980円

1/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 覚えのない宅配の商品名には、『魔法少女変身セット』と書かれていた。  プレゼント商法、あるいは送り付け商法といった言葉が頭に浮かんだが、そういえば先日、酔った勢いでネットショッピングで何か買っていた気がする。  ともかく、どことなく生暖かい視線を向けてくる宅配のお兄さんに、いつまでも荷物を持たせたままにしておくわけにはいかない。  さらさらとサインを書き荷物を受け取ろうとすると、この荷物結構重いので危ないですよと言われたので、忠告を素直に聞いて、床に置いてもらった。接客業で鍛えた愛想笑いでお兄さんを見送り、段ボールに向き合う。  ……さて、改めて目を擦って見ても、やはり商品名には『魔法少女変身セット』と書かれている。値段は着払いで3980円だった。今はサンキュッパで魔法少女になれる時代なのか。  花も恥じらう28歳の乙女なわけだが、日曜日の朝にやっている魔法少女のアニメは今でも見たりする。少女時代のように憧れはしないが、社会風刺とかが効いてて意外と面白いのだ。やはり視聴者層に”大きなお友達”がいるからという理由もあるのだろうか。  そういえば、こういった最近の玩具は、結構ハイテクな物が多いと聞いたことがある。科学の進歩というやつだろう。私が親にねだった玩具なんて、せいぜいが光るか音が鳴るかというくらいだったが、今時の玩具は遠隔操作とかAIとかが有るらしい。  何はともあれ、さっそく段ボールを開封しようとするが、厳重に封がされている。ならば取り合えず部屋に持っていこうと持ち上げようとしたが、ビクとも動かなかった。  おかしい。一向に持ち上がる気配がない。それどころか、引きずって押すこともできない。いくら非力な乙女とはいえ、こんなに動かないということがあるんだろうか。  マジか。あの宅配のお兄さん、コレを抱えてあんな笑顔だったのか。仕方がないので、玄関で開封するしかない。何だか負けたような気がして癪だが、まぁどうしようもない。  部屋からカッターナイフを持ってきて、鼻歌交じりに封を切っていく。蛇腹構造を切り抜くときの小気味良い音が響く。あともう少しで開く、というときになって、箱が音を立てて跳ねた。  箱の中で花火でも打ちあがっているかのように、ドンドンと音がして、箱の上の方が盛り上がったりしている。  何だ。何かが爆発しているのか。すわ、刺激は与えない方がいいだろう。しかし、どうしてだろう。天地無用とか危険物注意とか、そういったことは書いていなかったはずだ。  というか、何で爆発しているんだろう。いや爆発とは限らないが、何故か脳内イメージでは、打ち上げ花火が上がっている。  暫くすると、振動と音が止んだ。もう、開けてもいい頃合いだろうか。  念のため、気休めだが顔を仰け反らしながら、最後の封を切る。…………よし、大丈夫そうだ。  さて、気になる中身は、と箱の中身を覗き見ると、黒猫のぬいぐるみが入っていた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!