魔法少女変身セット。税込み3980円

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 はて、黒猫のぬいぐるみ……。本物と見紛うほどに精巧ではあるが、魔法少女変身セットの中身としては、関連性がよく分からない。それと、先ほどの爆音も不思議だ。  ひょい、と試しに黒猫のぬいぐるみを持ち上げてみると、温もりを感じる。まるで本物の生物のようだ。……本物じゃないよな? もしそうだとしたら凄く怖いのだけれど。  ……あぁ、尻尾の付け根当たりに、何やらスイッチのようなものが隠されていた。良かった、ちゃんと非生物のようだ。  このスイッチを押せば疑問が解決するのだろうか、と期待を込めて押してみると、黒猫のぬいぐるみの目がパチリと開いた。不気味の谷という言葉を思い出すほど、やはり本物の猫のように見える。 「やぁ」  喋った。なるほど、これが噂のAIというやつか。 「えーあい? 何だいソレ。僕は魔法生物だよ」  おぉ……。凄い、思考を読んだ。そういえば昔、携帯ゲーム機のマジックのゲームソフトで、念を読み取るという物があったのを思い出した。まぁ、あのゲームは単に人の心理的な隙を突いただけのものであったらしいが。 「ふぅ。やっぱり少女じゃないと苦労するなぁ。彼女たちなんて心配するくらい即答で信じるのに」  そういって黒猫のぬいぐるみが箱の中から何かを咥えて取り出した。まだ中に何か入っていたのか。 「はい、契約書だよ」 「契約書?」  会話が成り立っている。……今さらになって、もしかして、もしかしてだが、この黒猫は、ぬいぐるみじゃないのでは、という考えが沸々と湧いてきた。  いやいやいや! ここは画面のこちら側の世界だ。流石に、そんなファンタジーなことが起こるはずがない。  恐る恐る黒猫が差し出した契約書を読んでみると、A4サイズの紙に、堅苦しい言葉でビッシリと書いてあった。 「同意するのなら署名して火に焚べれば契約は成立するよ」  そう言って黒猫は眠たそうに欠伸をした。 「……えっと、願いが叶う代わりに、怪物と戦うってあるけれど」 「そのまんまの意味だよ。願いは何でも良いよ。ただし、どんな願いでも、怪物と戦うっていうのは変わらないけれど」  どんな願いでも叶えられる。心惹かれる文句だが、その分の代償はかなり大きい気がする。怪物というのがどんなものかは分からないが、命の危険はあると見ていいだろう。 「因みに。今まで契約した人たちは、どんな願いにしたの?」 「前の子は『お腹いっぱいケーキを食べること』だったね。因みにその数日後に怪物に殺されちゃった」 「それは…………何というか、高い買い物だね」  魔法少女の世界も、砂糖だけで出来ているわけではない、ということか。  契約書にサインをせずに、ライターの火で燃やす。申し訳ないと思いながら黒猫の方を見ると、意外にも安堵の表情を浮かべていた。 「ありがとう、契約しないでくれて」 「貴方にとっては、契約してくれた方が良かったんじゃないの?」 「そうでもないよ」  黒猫はまた欠伸をした。何だかよく分からないが、まぁ、魔法少女の世界にも色々と事情があるのだろう。  瞬きをすると、黒猫は消えていた。残された空のダンボールを見ると、黒猫の毛に紛れて、人間の髪の毛みたいなものが落ちていた。  魔法少女変身セット、かぁ。まぁ、サンキュッパで見る夢にしては、悪くなかったかもしれない。
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