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跳ねるようにして振り返ると、ソイツは「あーあ、騙されちゃったんだね」と小馬鹿にした笑みを浮かべて、
「でも大丈夫。すぐに来てよかったって思えるから、ね?」
さ、行こうと。腰に回された手に鳥肌が立つ。
あ、本気で無理。
身体中の細胞が大声で拒絶を訴えるけれど、相手はまがりなりにも部長の息子。下手なことは出来ない。
(うーん……ひとまず適当に付き合って、さっさと断ればいっか)
こうして私は、望んでもいない"お見合い"をさせられてしまった。
眼鏡の彼は孝彰さんというらしい。
大学在籍中にVRの活用をメインとするベンチャー企業を立ち上げ、今も社長として国内と海外を飛び回る日々を送ってるという。
VRとはなにかから始まり、市場がどうとか、自身の発想力の豊さがどうとか、しまいには社交パーティーの裏事情まで二時間たっぷりと聞かされ、せっかくのフレンチもどれ一つ味なんて覚えていない。
口直しに駅でケーキでも買って帰ろうかな……。
あ、あのドラマ見なきゃ。配信来てるはず。
表面だけは笑みを崩さず適当に相槌を打って、耳に入る雑音を右から左に捨てていく。
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