『姿の見えないストーカー』に追われています

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 本音を言えたら一番なのだけど、今後のことを考えると当然そんな愚策はとれない。  私はまだまだ、この会社でお世話になる予定なのだから。 (さあて、どうしよっかなあ……)  もう一度会うなんて、絶対に嫌。  どんなに懇願されても、首を縦にふるもんか。 (相手を怒らせず、かつ確固たる拒絶を示せる言葉、ねえ……)  ああでもないこうでもないと思考を巡らせていると、いつまでもいい返事をしない私に痺れを切らしたのか、部長は掌を返したように不貞腐れた顔をして、「……だいだいねえ」と頬杖をついた。 「柊くん、もう29だろう? ここで決めておかないと、本当に貰い手がいなくなってしまうよ?」 「……はい?」 「確かにね、キミはとんでもなく美人だ。けどね、いくら美人だろうと、30を過ぎたらねえ? 大体、今だって恋人すらいないんだろう? なら、充分にいい話じゃないか。息子は35だし、年齢的にも丁度いいだろう? 金だってある。いつまでも理想ばかり追いかけていたって、白馬の王子様なんて一生現れないさ。もっと現実を見るべきじゃないかい?」  なに、その、まるでキミの為だとでも言わんばかりの態度。  女は結婚が、年齢が全てだとでも?  恋人がいなければ、白馬の王子様を夢見てる……? (……あ、駄目だ)  必死に抑え込んでいた憤怒が、勢いよくリミッターを弾き飛ばす。
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