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「……そんな風に化粧だの服だの身なりに金をかけておいて、男に興味がないだなんて嘘がよく言えるな」
呻くような嫌味。
ううん、負け惜しみって言った方がしっくりくるような。
「……だからですね」
私は小さく嘆息して、顔だけで振り返る。
「私は、私のために、自分に手をかけているんです。男のためじゃありません」
失礼しますと言い置いて、今度こそ私は会議室を出る。
まだ腹の虫がおさまらない。
このまま仕事に集中できるとも思えないし、気分転換に飲み物でも買いにいこうかな。
自席に戻った私は疲労を落とすようにして椅子に座り、足元に置いていた鞄から財布を取り出そうとした。
その、時だった。
「ねえ、ちょっと」
(……でた)
席は私の斜め前。
私より五年早く入社している高倉里沙さんが、ふんわりとした明るい髪を指先で耳にかけて、ローズピンクの唇をニヤニヤと吊り上げた。
「柊さんってさあ、実はオトコじゃなくて、オンナが好きだったりするんでしょ」
「……今のところ、女性を恋愛対象として見たことはないですけど」
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