『姿の見えないストーカー』に追われています

19/32

394人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
 駅から手に握っていたスマホに力をこめて、音もなく揺れるだけの鈴に文句を垂れる。  そうこうしているうちに、亀戸天神社が視界に入った。  助かった。私は無意識に歩調を早める。  昨夜気が付いたのだけど、この謎の気配は決まって亀戸天神社で消える。  神社だから、神様の力とか?  何はともあれ、ここに辿り着けば解放されるという事実が、今の私には何よりの救いだった。 「もう少し……っ」  もはや駆け足と化した私のヒール音だけが、ほの暗い夜道に確実な存在を響かせる。  階段上に佇む、立派な朱塗りの鳥居。  その前に差し掛かかると、思っていた通り、すっと気配が消えた。 (……やっぱり)  疲れた、と安堵の息をつき緊張を解いた私は、一度立ち止まって乱れた呼吸を整えようとした。  途端――。 「……おい」 「!?」  深い藍色に染まった路地に、突如響いた低い声。  驚きに顔を跳ね上げると、鳥居の足下に腰掛けていたらしい人影がゆらりと立ち上がった。  ……男、の人。  夜よりも濃い、黒色の着物と髪。  少し長い前髪は目にかかっていて、ぼんやりと浮かぶ顔面に月明りの影を落としている。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

394人が本棚に入れています
本棚に追加