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「……何も、知らないのか」
「え、と……?」
「……どうしてここに、走ってきた」
「それは、私の帰り道ってのもあるけど……数日前から、変な気配がついて来るのよ。それが、ここを通るとなくなるから……」
(って、私ったらなんで素直に話しちゃったの!)
相手がストーカーだったら、自爆行為もいいところだ。
慌てて「あ、あの!」と声を上げた私は、なにやら深刻そうに思案する男のうっとおしそうな視線にもめげず、
「その、ここ最近私に付いて来てたのって、実はアナタだったり……?」
「ふざけるな。どうして俺がわざわざアンタを追わなきゃならない」
聞いているのは私なんだけど……。
思わずついて出そうになった言葉を、私はなんとか喉元で押し留めた。
うん、まあ、違うなーとは思ってたんだけどね。
念の為よ、念の為。
「ええと、それじゃあなんか、人違いをされてるっぽい感じですよね? なら、私はこれで……」
謎の気配に、理不尽な嫌がらせ。これ以上の面倒事は勘弁してほしい。
へらりと笑って、立ち去るべく背を向けると、
「……知ろうとするな。知らないままでいろ」
「……へ?」
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