『姿の見えないストーカー』に追われています

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 なんのこと、と振り向くと、既に男は背を向けていて、私とは反対側の路地へと消えていった。 (……ホントに、なんなんだろ、アイツ)  もしかして、間違って声をかけちゃった照れ隠しだったとか?  それなら、うん。言わせておいてあげよう。  そんなことを考えながら、私はいつもより幾分か軽い心地で家へと急いだ。  迎えた金曜日。今日を乗り切ってしまえば、休日である二日間は悩みの種から解放される。  ちゃっちゃと終わらせて帰ろうと、驚きの集中力でPCと向き合っていた午後十五時過ぎ。  事件が起きた。 「へえ、真面目に仕事してんだ? エライね、彩愛さん」 「!?」  耳元で響いた声に、私は勢いよく視線を向けた。  息が止まる。デスク横にいたのは、人を小馬鹿にしたようにニヤニヤと笑んで手を振る、ダークグレーのストライプスーツを纏った縁なし眼鏡の男。 「孝彰さん……っ!? どうして」 「うっかり者の親父が重要書類を家に忘れていったらしくてね。わざわざ呼び出されて、届けに来たってワケ。……ってのは、まあ、建前上で」  不意に伸ばされた掌が、肩にかかる私の髪をひと房、するりと撫でる。
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