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思わず呆けた声を出したのは私。
けれど高倉さんは一瞥もせず、すさまじい勢いで孝彰さんの片手を握りしめ、
「ご縁がなかったのだと、何度も忘れようとしました。けれどどう足掻いても、ずっと心に残っていて……。どこかでもう一度、奇跡が起きてくれればって願っていました。そうしたら、こうしてまた会えたんです。これはもう、運命の糸が引き寄せてくれたのだとしか思えません……!」
濡れた瞳で切なげに見つめ上げる高倉さん。月九俳優さながらの迫力に、私は唖然としながらも淡い期待を抱いた。
これはもしかして、もしかすると孝彰さんもぐらっときてその手を握り返すんじゃあ……?
けれども悲しいかな、彼は「……あのですね」と眉根を寄せ、握りこめられていた自身の手を半ば強引に引き抜き、
「何を勘違いしているのかわかりませけど、俺は彩愛さん会いに来たのであって、アナタにはこれっぽっちも興味ないんですよ。その、運命糸? とやらが繋がっているのは俺じゃないんで、他を当たってください」
「そんな……っ」
悲痛の面持ちで絶句する高倉さんの背後。
私は視線を落として、腹立たしさに双眸を細める。
(あいっかわらず人の気持ち考えないなあ……)
断るにしたって、もう少し言い方ってモンがあるでしょうが。
(……なんか、面倒になってきた)
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