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涙の滲んだ恨みがましい目で私を睨み上げ、高倉さんはさっと踵を返して出て行ってしまった。
絨毯を走るくぐもったヒール音が、遠ざかっていく。
ふと、視線を上げると、鏡の中には取り残された私の姿。
「……私の顔があれば、ねえ」
これまで何回、この言葉を聞いたっけ。数えるのも、めんどくさい。
私はそっと鏡に手を伸ばして、こちらを見つめる頬に触れた。冷たい。
他人は皆、いろいろな言葉でこの顔を称賛して羨むけれど、それはこの顔であるが故の苦労を知らないから、気軽に言えるんだと思う。
この顔を世界で一番愛しているのは、私。
でも同じだけ、憎んでもいる。
きっとこの、相反する葛藤を、他の人は理解しない。
「……そんなに"顔"を変えたいのなら、整形でもすればいいのに」
その覚悟すらないのなら、"もしも私の顔だったら"なんて絵空事、いくら唱えようが無駄ってものだ。
「……今日はローズアロマの入浴剤いれよっかな」
疲れた顔。かわいくない。こんなんじゃテンション駄々下がり。
うん、決めた。今日は美味しいご飯を食べてから帰ろう。
「……あと五分したら、戻ろっかな」
どうか諦めて帰ってくれていますように。
そう願いながら、私は鏡に映る"私"とディナーの相談を始めた。
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