"顔"に焦がれたのっぺらぼう

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 パニックに陥りながらも本能で引き剥がそうとすると、 「……だから、"知ろうとするな"と言っただろう。その頭は空っぽの飾りか?」 「!」  聞き覚えのある声に、顔をひねる。 「あんた、昨日の……!」 「うるさい騒ぐな。人が来たら厄介だ」  解放された掌。  押しのけるようにして私の前に歩を進めた男は、私を一瞥もせずに顔のない女を睨み続ける。  ――間違いない。昨日のあの男だ。  どうしてここに、とか、あの女の人見えてるの、とか。  言いたいことは色々あったけど、どれも言葉にならない私の眼前で、男は着物の合わせ目から万年筆のようなものを取り出した。  深い、黒とも少し違う色をしたそれは、精密な金の装飾が施されている。 (綺麗な万年筆……って、そうじゃなくて)  それ、なに? と私が尋ねるよりも早く、 「――"薄紫"」  男がそう呟いた次の瞬間、その手元で閃光が弾けた。  眩しさに目がくらむ。瞬きをしたその刹那、男の手にあったはずの万年筆が、美しい刀へと姿を変えた。 「う、そ……」  なに? なにが起こっているの?
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