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夢だと言われれば信じてしまいそうな出来事が、紛れもなく現実で、目の前で起こっている。
へたりこんでしまいそうな膝にぐっと力をこめて、自分の置かれた状況を理解すべく必死に脳をフル回転させていると、男は静かに刀を鞘から抜き出した。
躊躇うことなく、やけに艶やかなその切っ先を、顔のない女に向ける。
(――え、こ、これってヤバいんじゃ……っ)
「ちょっ、ちょっと。そんなもの向けたら危ないじゃない……っ!」
「危ない? 自分が取り込まれそうだったというのに、随分とおめでたい思考だな」
「はあ!?」
「いいか、アレはあやかしだ。『のっぺらぼう』と言えば、アンタにもわかるだろう。そしてこの刀は、『祓え』の力を持つ妖刀だ。……一度関わってしまった以上、仕方ない。俺は俺の仕事をする」
「し、ごとって……」
男は刀を構えたまま、眼だけを私を寄こし、
「俺は、祓い屋だ」
「はらいや……?」
呆然と繰り返した私の声に重なるようにして、「ひっ」と怯えた悲鳴が聞こえた。
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